popoのブログ

超短編(ショートショート)

母と娘のチョコレート工場

春の陽光が差し込むキッチンで、甘い香りが漂っていた。

台の上には、溶けたチョコレートが鏡のように輝き、

その周りにカラフルなトッピングが並べられている。

 

「今日はいつもと違うチョコレートを作ってみよう!」

 

そう提案したのは、小学生の娘だった。

いつもは型に入れて作る定番のカタチ。

今日はもっと自由な形を作りたくなったのだ。

 

「いいね!どんな形にする?」

 

と、母親は笑顔で答える。

母親は、娘が小さい頃から一緒に料理をするのが大好きだった。

 

娘は、冷蔵庫から様々な形のクッキーカッターを出してきた。

「ハートや星の形はいつも作るから、今日は動物の形にしようかな。」

 

「動物、いいね!でも、難しいかもよ」

 

母親は、チョコレートにトッピングを混ぜて、

大理石模様を作ってみたり、

ナッツを散らしてシマシマ模様を作ってみたりと、

様々なアイデアを出した。

 

シマシマのシマウマとか、カラフルなキリンさん!」

 

娘は、母親のアイデアに目を輝かせた。

 

2人は、チョコレートを流し込み、トッピングで飾り付けをしていく。

娘は、シマウマのチョコレートにストライプ模様を一生懸命描いていると、

母親はキリンのチョコレートにカラフルなドット模様を描いていた。

 

「ママ、これ見て!シマウマのたてがみ、できたよ!」

 

「すごいね!とっても上手!」

 

キッチンは、二人の楽しそうな笑い声で満たされた。

 

完成したチョコレートは、

それぞれ個性豊かな動物の形をしていた。

シマウマ、キリン、猫、犬、パンダ…

まるで小さな動物園のようだった。

 

「わぁ、可愛い!まるでチョコレートの動物園だね!」

 

娘は、出来上がったチョコレートを見て目を丸くした。

 

「そうだね。」

 

母親は、チョコレートの動物たちを一つ一つ丁寧に箱に詰めていった。

 

「パパにもおすそ分けしようね。」

 

「うん!」

 

娘は、箱を開けて、チョコレートの動物たちを眺めていた。

チョコレート作りは、ただ甘いお菓子を作るだけでなく、

親子で一緒に創造性を育む大切な時間だった。

 

「ママ。失敗した動物さんはどうするの?」

 

「そうね・・・」

 

そう言って母親は固まったチョコレートを切っていった。

 

「Y・U・K・I。 ゆき。」

 

「あ!わたしの名前だ!」

 

夕ご飯の後、家族みんなでチョコレートを食べた。

 

「シマウマ、縞模様がリアルだね!」

 

「キリンの模様も可愛い!」

 

「何より、ゆきの名前がいいな!」

 

家族みんなで、チョコレートを楽しみながら、今日の出来事を話した。

 

娘は、これからも色々な形のチョコレートを作ってみたいと思った。

そして、いつか自分だけのチョコレート屋さんを開くのが夢になった。

 

お家の中は、家族の笑い声。

夜の窓の外には、満月が輝いていた。

 

そしてキッチンには、

チョコレートの甘い香りがまだほんのり残っていた。