少年は、夜になると布団の中に顔を埋め、
なかなか眠れなかった。
窓の外から聞こえる風の音や、
壁の模様が、彼の想像力を掻き立て、
様々な形の怪物に見えてしまう。
少年は何度も母親に「怖いから一緒に寝て」と頼んだ。
母親は優しく少年を抱きしめ、
「大丈夫だよ。何も恐れることはないよ。」と囁いてくれた。
ゴロゴロゴロ!!
ある夏の夜、突然、停電になった。
部屋は真っ暗闇に包まれ、少年はパニックになった。
心臓がドキドキと音を立て、冷や汗が止まらない。
少年は布団に顔をうずめ、目をぎゅっと閉じても、
暗闇という恐怖が彼を埋め尽くす。
「お母さん!」
少年は大きな声で母親を呼んだが、返事はない。
「どうしよう、怖い…」
恐怖に震えながら、少年はゆっくりと布団から出た。
真っ暗闇の中で、少年は自分の心臓の音だけが大きく聞こえた。
目を強く閉じ、ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ。
恐る恐る、少年は部屋の隅に手を伸ばした。
そこには、おもちゃ箱があり、
触れた感触が、少年を少し安心させた。
少年は深呼吸をし、目をゆっくりと開けた。
最初は何も見えなかったが、
しばらくすると、部屋の輪郭がぼんやりと見えてきた。
少年は、おもちゃ箱の場所を頼りに、
少しずつ部屋の中を探索し始めた。
最初は恐怖に震えていた少年だったが、
少しずつ暗闇に慣れてきた。
そして少年は、暗闇の中にいる自分を
受け入れることができるようになった。
ガチャ。
やっとの思いで、部屋のドアを開ける。
廊下もまた同じように暗闇だった。
しかし、もうそこには恐れる彼はいなかった。
確実に一歩ずつ歩を進める。
「こうた!大丈夫!?」
母親の声がした。
「うん!大丈夫!」
そして、声のもとへ向かう。
「こうた!」
母親は少年の腕をつかみ、体を引き寄せる。
しばらくして、長い間続いていた停電が復旧する。
少年には恐怖は確かにまだ少し残っていたが、
克服できたという達成感で心が満たされていた。
「強くなったわね。」
母親は少年の頭をなでる。
そして少年は一つのことを学んだ。
「勇気を持つ人というのは、
恐怖を感じない人ではなく、
恐怖に打ち勝つことが出来る人のことなんだ。」と。