私は、実家の栃木県にある祖母の家に帰省した。
広々とした庭には、昔の思い出が詰まった遊具があり、
懐かしい香りが漂っていた。
祖母の家には、いたるところに手作りの品が飾られていた。
その中でもひときわ目を引いたのが、
玄関に吊るされた黄ぶなだった。
黄色い体に赤い顔、どこかユーモラスなその姿は、
子供の頃に見た記憶が蘇った。
祖母に黄ぶなのことを尋ねると、
「これはね、昔、村に疫病が流行った時に、
黄色い鮒を食べて病気が治ったという言い伝えがあるのよ。
それ以来、無病息災を願って、毎年
新しい黄ぶなを飾るようになったの」と教えてくれた。
私は、黄ぶなの温かいぬくもりを感じながら、
祖母が話してくれた昔話をじっと聞いていた。
都会では味わえない、ゆったりとした時間の流れの中で、
私は何か大切なものを忘れていたことに気づかされた。
ある日、祖母が体調を崩し、病院に運ばれた。
私は、いつも通りの穏やかな表情を見せる祖母の姿に、
心が締め付けられるような思いがした。
病室で、私は黄ぶなを祖母の手の中にそっと置いた。
「元気になってね」と心の中でつぶやきながら。
数日後、祖母は無事に退院した。
再び、黄ぶなが飾られた家に帰ってきた祖母は、
いつものように笑顔を見せてくれた。
「黄ぶなが見守ってくれてるから、大丈夫よ」と、
そう言って私を抱きしめてくれた。
祖母との触れ合いを通して、私は黄ぶなが単なる郷土玩具ではなく、
家族の絆や故郷の温もりを象徴する存在であることを深く理解した。
都会に戻っても、黄ぶなが教えてくれたことを忘れずに、
忙しい日々の中でも心のゆとりを大切にしていきたい。