popoのブログ

超短編(ショートショート)

幕開き

爛漫の京都、歌舞伎座

華やかな舞台に、今まさに歴史が刻まれようとしていた。

 

舞台中央に立つのは、当代随一の名優、二代目成田玄十郎。

その両脇には、長男の勇玄、次男の十蔵、三男の凛太郎が控えている。

三人の顔には、緊張と決意が入り混じっていた。

 

今宵上演されるのは、歌舞伎の中でも

特に難解とされる通し狂言祇園祭礼文楽」。

玄十郎は、この大役を息子たちと共に行うことを決意したのだ。

 

長年にわたって培ってきた芸を息子たちに受け継ぎたい。

自分がそうだったように

歌舞伎の伝統を未来へと繋げていきたい。

そんな熱い思いが、玄十郎の胸を焦がしていた。

 

舞台は進む。

玄十郎は、長年の芸歴を活かした重厚な演技を披露する。

その姿は、まるで一幅の絵画のようだった。

 

一方、息子たちも父に応えようと、

渾身の演技を見せる。

玄十郎の教えを受け継ぎ、それぞれが独自の個性を発揮していく。

 

舞台上には、父と子、そして師弟という三つの関係が交錯する。

そこに生まれるのは、言葉では言い表せない深い感動だった。

 

観客たちは、息を呑むように舞台を見つめている。

三人の熱演に、誰もが心を奪われていた。

 

クライマックスシーン。

玄十郎と息子たちが一斉に舞台を駆け巡る。

その息の合った演技は、まるで三位一体のようだった。

素晴らしかった。

 

舞台が終わると、観客たちは割れんばかりの拍手喝采を送った。

それは、三人の熱演に対する最高の賛辞だった。

 

舞台袖では、玄十郎と息子たちが抱き合っていた。

互いの健闘を称え合い、喜びの涙を流す。

そこには、今は亡き先代の写真も飾られていた。

 

その夜、京都の町は熱気に包まれていた。

三代続く芸の魂が、

多くの人たちの心に深く刻み込まれた。

 

「おやじ。やったよ。」