popoのブログ

超短編(ショートショート)

新しい人生

それは桜並木が美しく咲き誇る春の日だった。

長年連れ添った夫婦。俺は妻である美咲と

桜の花びら舞う公園のベンチに並んで座った。

 

俺たちは静かに微笑みながら、

互いの手を優しく握りしめていた。

 

俺は、意識したように少し温かい声で

美咲に語りかけた。

「美咲、長い間、本当にありがとう。

 君と過ごした日々は、

 僕にとってかけがえのない宝物だよ。」

 

美咲も涙を浮かべながら

「わたしこそ、ありがとう。あなたのおかげで、

 私は幸せな時間を送ることができたわ。」

 

俺たちは、結婚生活の中で

様々な喜びや悲しみを分かち合ってきた。

子供たちの誕生、仕事の成功、そして家族の死。

人生の様々な節目において、俺たちは常に支え合い、

共に乗り越えてきた。

 

でも最近は少しずつすれ違いを感じ始めていた。

価値観の違いが生まれ、生活の変化が、

俺たちの間に小さな溝を作り始めていた。

 

離婚を決断するのは簡単ではなかった。

何度も、何度も、話し合った。

その中で俺たちは、

互いの幸せを願う気持ちは同じだった。

 

時には、涙しながら語った。

時には、笑みをこぼしながら語った。

そして俺たちは・・・

円満離婚という道を選ぶことにした。

 

公園のベンチで、俺たちは思い出話に花を咲かせた。

子供たちの成長、旅行での思い出、

そして二人の出会いの日。

思い出話に、何度も顔を見合わせ、微笑み合った。

 

「そろそろ行こうか。」

遂にその時は訪れた。

 

俺は、もう一度、美咲の手をそっと握った。

「美咲、これからは、これからも、ずっと大切な友達だよ。

そして、いつかまたどこかで会えることを願っているよ。」

 

美咲は、俺の胸に顔を埋め、静かに涙を流した。

俺たちは、桜の花びら舞う中、最後のキスを交わした。

 

 

数ヶ月後のある日、

俺は仕事途中で訪れた商店街を歩いていた。

遠くからでも分かった。

距離がだんだん近くなる。

美咲はどうやらこの商店街で新しい人生をスタートしているようだ。

買い物袋をいっぱいにした彼女は足早に向かってくる。

そして俺との距離がほんの数歩。というところで

少しゆっくりになった。

 

目が合う。

 

互いに笑みを浮かべる。

 

そして・・・

 

すれ違った。

 

俺は振り返る。

 

すると彼女も振り返っていた。

 

「がんばってる?」

 

「私は今楽しいよ!」

 

「ああ!おれも!おれも楽しいよ!」

 

俺たちは、互いの幸せを祈り続ける。