灰色の空が、まるで街を覆い隠そうとする巨大な布のようだった。
かつては美しいエメラルドグリーンに輝いていた湖は、
今では濁った茶色に染まり、死んだ魚の腹が水面に浮かんでいた。
火山灰が降り積もり、街はまるで
モノクロームの世界に閉じ込められたかのようだった。
老夫婦の小さな家は、
ひび割れた窓ガラスから差し込む薄暗い光に照らされていた。
老女は、震える手で毛布を膝にかけ、窓の外をじっと見つめていた。
夫は、暖炉に薪をくべ、パチパチと音を立てて燃え上がる炎を見つめていた。
「もう、だめかもしれないね。」
老女の声は、まるで遠い昔の思い出のようにかすれていた。
夫は頷き、彼女の肩を抱いた。
「うん。でも、一緒にいられるから寂しくないよ。」
二人は、互いの手を握りしめ、
静かに時が過ぎるのを待った。
外では、火山灰がますます激しく降り注ぎ、
家屋の屋根が音を立ててつぶれる音が聞こえた。
地震が頻発し、家は大きく揺れた。
それでも、二人は互いの傍に寄り添い、決して手を離さなかった。
「若い頃は、もっと色んなところへ行きたかったね。」
老女は、遠い目をしていた。
夫は優しく微笑み、彼女の髪を撫でた。
「どこへ行っても、君がいれば良かった。」
夕焼けは、まるで燃え盛る火山のようであった。
空は、赤とオレンジ色に染まり、それはまるで、
二人が生きてきた人生の輝かしい瞬間を映し出しているかのようだった。
やがて、空は暗くなり、星が輝き始めた。
老夫婦は、静かに息を引き取った。
二人は、まるで眠るように、穏やかな表情をしていた。
翌朝、火山が噴火した。
溶岩が街を飲み込み、家は灰燼に帰した。
しかし、老夫婦の小さな家は、
他の建物よりも少しだけ長く形を保っていた。
まるで、二人が最後の瞬間までこの街を見守っていたかのように。