18歳になった朝、
彼女はいつものようにメガネをかけて鏡の前に立った。
しかし、今日は何かが違う。
いつも通りの曇ったレンズに、
自分の顔がぼんやりと映る。
何度もレンズを拭き、顔を近づける。
それでも、視界は変わらない。
「また、視力悪くなったのかな…」
そう呟きながら、ため息をついた。
小さい頃から眼鏡は、彼女の体の一部だった。
メガネなしの自分なんて、想像もできない。
そんな時、ふと、鏡に映る自分の目に視線が釘付けになった。
いつも眼鏡の奥に隠れていた、自分の目が、そこにはあった。
少し青みがかった、澄んだ瞳。
今まで見たことのない、自分の目が。
「もしかして…。」
そう思った陽菜は、勇気を振り絞ってメガネを外してみた。
最初は、何もかもがぼやけて見えた。
でも、数秒後、世界がクリアに見え始めた。
戸惑いながらも、陽菜は部屋から飛び出した。
庭に出て、深呼吸をする。
太陽の光が、今まで感じたことのない温かさで、
彼女の頬を撫でる。
鳥のさえずり、花の香り、風を感じる肌。
すべてが、新鮮で、輝いて見えた。
学校に着くと、友だちから驚きの声が上がった。
「メガネ外してる!」「めっちゃ可愛い!」
そんな言葉に、彼女は照れながら笑った。
放課後、いつも通り一緒に帰る友だちと、いつもの道を通った。
いつもは通りの名前すら覚えていなかった道が、今日は違って見えた。
お店のショーウィンドウに飾られた洋服、道端に咲く花、人の表情。
すべてが、細かく、色鮮やかに目に飛び込んでくる。
「ねぇ。なんか、いつもと違うね。」
友だちの言葉に、彼女は大きく頷いた。
「うん、世界が変わった気がする。」
その日から、彼女の世界は一変した。
メガネを外したことで、今まで見えなかったものが見えるようになった。
それは、景色だけではなく、人々の心の奥底まで。
卒業式の日、彼女はステージの上で、堂々と卒業の言葉を述べた。
メガネを外し、自信に満ちた笑顔を見せる彼女の姿に、
会場からは大きな拍手が沸き起こった。
「私は、メガネを外すことで、本当の自分と出会うことができました。
皆さんも、自分の可能性を信じて、一歩踏み出してみてください。」
そう告げると、会場からは温かい拍手が鳴りやまなかった。
卒業後、彼女は大学に進学し、新しい世界へと飛び込んでいった。
メガネを外した日から、彼女の人生は、
大きく、そして輝かしいものへと変わっていった。
そして同時にこれまで自分を守ってくれたメガネに感謝をした。
「このメガネがあったから、メガネのわたしがいたから…」
「ありがとう。」
彼女に大切なメガネは今でも、枕元にいつもそっと置かれている。