popoのブログ

超短編(ショートショート)

コインランドリー

毎週土曜の朝、俺は決まって

コインランドリーへ向かっていた。

ちょっと古びた建物はどこか懐かしさを感じさせ、

いつも心地よい静寂に包まれていた。

 

俺がこのコインランドリーに通い始めたのは、

大学に入り、一人暮らしを始めた頃。

一人分の洗濯物なら自宅の洗濯機で済ませられるが、

週末に溜まったバスタオルやシーツなどを

まとめて洗うにはコインランドリーの方が効率的だったからだ。

 

ある土曜日の朝、俺がいつものように

洗濯物を洗濯機に放り込んでいると、

見慣れない若い女性が隣の洗濯機に洗濯物を入れ始めた。

女性は俺と同じく大学生くらいの年齢で、

ロングヘアに優しい顔が印象的だった。

 

俺は、一瞬でその女性に惹かれた。

しかし、シャイな性格の俺は、

声をかけようにもなかなか勇気が出ない。

結局、何も話しかけずに洗濯を終えて帰宅した。

 

しかし、その次の土曜日も、そのまた次の土曜日も、

俺は同じ女性を見かけた。

女性も俺に気づいている様子だったが、

やはり二人は言葉を交わすことはなかった。

 

そして数か月たった頃、

俺は意を決して女性に声をかけた。

「あの、いつもここで洗濯してますよね。」

 

女性は驚いた様子だったが、

「はい、そうです。私も一人暮らしなので。」と笑顔で答えた。

 

俺たちはもう何回も顔を合わせていたこともあり、

自然と会話が弾んだ。

共通の趣味や好きな音楽などについて語り合った。

そして俺は、女性の名前が「美咲」であることを知った。

 

それからというもの、俺と美咲は

毎週土曜日にコインランドリーで会い、

洗濯物をしながら談笑するのが定番となった。

 

そしてやがて俺たちは、恋人同士になった。

 

しかし、大学卒業とともに俺たちは、

別々の街へ就職することになり、

遠距離恋愛を続けることが難しくなった。

そして俺たちは、別れることを決意した。

 

「私たちって運命だったのかもね。」

 

俺は、付き合っていた頃の、

彼女の言葉が忘れられないでいた。

 

コインランドリーという平凡な場所で生まれた恋。

コインランドリーという平凡な場所で生まれた奇跡。

 

俺は、どんな場所でも出会いはあり、恋があることを知った。

 

俺は今でも毎週コインランドリーに通っている。

もちろん以前とは違う街で、

違うコインランドリー。

新しくて、音楽も流れている。

それに美咲はもういない。

 

それでも俺は、「また会えるかもしれない。」

そんな甘い期待をしているのかもしれない。