popoのブログ

超短編(ショートショート)

小さな嘘

私には幼い頃から時間を共にした親友がいた。

そんな私は、好きな子ができた。

 

「実は、プロのスカウトから声がかかって、

もうすぐ東京でモデルデビューするんだ。」

 

高校時代の夏、私はちょっとした強がりと、

好きな子にいい格好をしたいからと、

友人たちに嘘をついた。

 

何の根拠もない話だった。

田舎町の平凡な高校生だった私には、

モデルなんて夢のまた夢。

ただ、周りの注目を浴びたかった。

少しだけカッコよく見られたいという虚栄心が、

私を愚かな嘘へと導いたのだ。

 

友人たちは驚き、羨望の眼差しで私を見つめた。

特に、親友のミヤビは目を輝かせ、

 

「ヒナタ!本当かよ!すげーな!俺もいつか東京に行くぜ!」

 

と、純粋に喜んでくれた。

ミヤビは、夢を追いかけることが大好きな、

真っ直ぐな少年だった。

 

嘘はすぐに学校中に広まり、

私はちょっとした有名人になった。

モデルの仕事について聞かれると、

適当に話を作り足し、嘘はどんどん大きくなっていった。

 

「来週、雑誌の撮影があるんだ。」

 

「有名なデザイナーに気に入られて、専属モデルになるかも。」

 

虚栄心は、私をさらに深い嘘へと誘った。

周りの期待に応えようと、必死に嘘を重ねていく。

しかし、その度に、ミヤビの純粋な眼差しが私を苦しめた。

 

ある日、ミヤビが突然、東京に行くと言い出した。

 

「ヒナタを追いかけて、俺もモデルになるんだ!」

 

ミヤビは、私の嘘を真に受けて、

夢を叶えるために東京へ行こうとしていたのだ。

 

私は必死に止めようとした。

 

「お前じゃ無理だ!諦めろ!」

「お前には田舎がお似合いだ!」

「何をやってもお前はダメなんだから!」

「いいか!邪魔だから。」

「とにかく来るなよ!」

 

そして数日後、悲劇が起きた。

ミヤビは、東京行きの新幹線に飛び込み、

命を絶った。

 

(なんてひどいことを言ってしまったんだ…)

 

ミヤビの死は、私の心に深い傷跡を残した。

彼の純粋な夢を、私の愚かな嘘が踏みにじってしまったのだ。

 

私は、毎日後悔に苛まれた。

あの時、正直に話していれば、

ミヤビは死なずに済んだかもしれない。

 

「いつか一緒に世界中を旅しよう!」

 

これがミヤビの夢だった。

私はミヤビの死後、旅に出た。

そして旅先で出会う人々に、彼の話を伝える。

彼の純粋な夢を、私の愚かな嘘で壊してしまったことを、

何度も自分に言い聞かせる。

 

小さな嘘は、大きな悲劇を生んだ。

私は、これからもずっと、この罪と後悔を抱えて生きていく。

 

ミヤビの死から数年後、私に一本の連絡があった。

彼の遺書を見つけた。ということだった。

私は急いで彼の実家に向かった。

そしてそこには、こう書かれていた。

 

「ヒナタの夢を、俺が叶える。

 ヒナタの言葉を現実にしよう!

 そしていつか、一緒に世界中を旅しよう。」

 

日付はミヤビが「東京に行く」と言った前日だった。

ミヤビは、私の嘘を見抜いていた。

それでも、私の夢を応援してくれていたのだ。

 

私は、涙を流しながら、ミヤビに誓った。

 

「必ず、お前の夢を叶える。」

 

小さな嘘の代償は、一生涯続く。

 

しかし、私はミヤビの夢を叶えることで、

少しでも罪を償いたい。

 

「いつか一緒に世界中を旅しよう!」

 

私は一緒に映った写真をカバンに入れ、

今日も世界のどこかを歩き続ける。