popoのブログ

超短編(ショートショート)

劇場の記憶

私は薄暗い劇場に入り、

期待に胸を膨らませて座席に座る。

緞帳がゆっくりと上がり、

舞台に現れたのは壮麗なオーケストラ。

指揮者のタクトが動き出すと、

一糸乱れぬ音の洪水が私を包み込んだ。

 

ヴァイオリンの澄んだ音色、

チェロの深みのある響き、

ホルンの力強い旋律。

それぞれの楽器が織りなすハーモニーは、

私の全身を包み込んでいた。

 

目を閉じて耳を澄ませば、音の波に乗って、

どこまでも遠くへ旅をしているような気分になった。

私の心をどこまでも自由な場所へと連れて行ってくれる。

それは、まるで夢の中にいるような感覚だった。

 

あの日、私は初めてオーケストラの生演奏を聴いた。

それまでCDでしか聞いたことがなかった音楽が、

目の前で命を吹き込まれるように奏でられる様は、

まさに感動の連続だった。

 

私の平凡な毎日に、一縷の光が差し込んだ瞬間だった。

 

演奏が終わると、

感動のあまり立ち上がって拍手を送っていた。

私の目には涙が浮かんでいた。

 

幼い頃から音楽が好きだった私は、

いつか自分もオーケストラの一員になりたい

と夢をみるようになった。

 

しかし、夢は叶わなかった。

 

それでも、あの日の感動は

私の心に深く刻み込まれている。

 

時折、ふとあの日の記憶が蘇る。

劇場の暗闇、音の洪水、そして胸の奥底から湧き上がる感動。

あの日感じた音楽の力は、今も私を支えてくれている。

 

夢は叶わなかったけれど、

あの日の感動は、私の心の中に深く刻まれている。

音楽がくれた喜びと感動は、決して忘れることはないだろう。

それは、何物にも代え難い宝物だ。

 

これからも、私は音楽を聴き続けるだろう。

これからも、私は奏で、人生を彩っていく。

 

そして、いつかまたあの感動を味わうことを願っている。