popoのブログ

超短編(ショートショート)

残された記録

ある二人の男性がこの町にいた。

 

ひとりは、この町で愛されるパン屋の店主A氏。

元気で明るい性格。近所の人からも慕われている。

もうひとりは、小さな工場で働くB氏。

普段から静かで、口数も少なく、おとなしい。

 

ある日、A氏とB氏は偶然同じ場所で強盗事件に遭遇する。

A氏は体が震え、ただ犯人の言う通り指示に従った。

一方、B氏は犯人が凶器を持ち出しても怯むことなく、

果敢に立ち向かっていく。

激しい格闘の末、B氏は犯人を取り押さえた。

その後、駆け付けた警察は犯人を確保した。

警察は「よく耐えましたね。ありがとうございます。」

とA氏の方を見て言った。

 

事件後、A氏は町中の英雄となった。

犯人の指示に抵抗せずに従って動いた。

という勇敢な行動が称賛されたのだ。

一方、B氏の活躍は知られることなく、

事件の影に隠れてしまった。

 

B氏は何も言わなかった。

 

二人には共通する過去があった。

それはまだ若い頃、暴力事件を起こしていた。

 

A氏は恰幅もよく、喧嘩が強かった。

そのことから自然と威張っていた。

B氏は正義感は強いが、不器用で

相手が誰であろうと、行動に出るタイプだった。

 

そんな二人はそれぞれ暴力事件を起こし

数年の刑務所暮らしとなった。

 

刑期を終えたA氏は蓄えた貯金もあり

違う町でパン屋という商売を始めた。

成長したA氏は、生意気だった部分がなくなり

明るい声と、笑顔で人気の店主となった。

 

一方、刑期を終えたB氏は相変わらず無口で、

不愛想な人柄だった。

彼はまた同じ町の、小さな工場で働いた。

 

強盗事件が起きた時の様子が防犯カメラに

音声と映像で残されていた。

 

犯人「おい!誰でもいい!早くこの袋に入れろ!」

 

居合わせた従業員やほかの客は、

みな恐怖で動けなかった。

 

A氏「早く渡して出ていってもらおう。」

A氏「なんだよ。このままじゃ。大事になっちゃうだろう。

   俺は警察沙汰はご免なんだよ。」

A氏「おい。そこのおまえ。行けよ。」

B氏「・・・・・」

A氏「なんだよ。もう。もういいや。早く帰ってもらおう。」

犯人「おい!さっさとしろ!」

A氏「私やります!はい。今入れます。」

犯人「他の奴は壁向いてろ!」

 

A氏が動いたことで、B氏と犯人の間に死角が出来た。

B氏はその瞬間を見逃さなかった。

素早く動いて犯人の手をつかんだ。

揉み合いになりながらも、取り押さえた。

そしてその後、警察がやって来た。

 

客「ねぇ。あの人。何年か前に暴力事件起こした人でしょ。」

従業員「悪い人がいて助かったわね。」

客「Aさん。あなたが動いてくれて助かったわ。」

A氏「いやぁ。あのままじゃ皆さんに危険が。」

警察「よく耐えましたね。ありがとうございます。」