popoのブログ

超短編(ショートショート)

恋愛初心者

私は傷つくのが怖くて恋愛をやめた。

 

数年前、恋愛とは無縁だった私は

一人の男性と知り合った。

それは私が居酒屋でアルバイトをしていた時のこと。

「いつもおつかれさま。」

常連だった彼はお会計の際に

私にいつもこう言ってくれた。

 

「いつもおつかれさま。」

 

その言葉は私にとって魔法のような言葉だった。

慌ただしくても、疲れていても、

その言葉の瞬間だけは、私は癒された。

 

彼が来るのを、彼の言葉と表情を、

心待ちにした。

日が経つに連れ、その想いは強くなった。

 

そして私にとって歓喜の日がやって来た。

「あ!ごめんなさい!」

私が彼のお酒をこぼしたことから始まった。

 

「大丈夫だよ。」「今日はいつもより疲れてるのかな?」

 

誰かに自分のことを気にしてもらったことなんて

私にはなかった。

 

「あ。あの。今度映画行きませんか!?」

 

私の口から咄嗟に出た言葉。

全く映画なんて興味ない私。

それでも一緒に居たくて。

 

(ああ。なに言ってるんだろう)

 

「いいよ。ちょっと待って。」

彼は私に名刺をくれた。

 

初めてのデートは緊張した。

何を話したのかも覚えていない。

とにかく沈黙の間が嫌で

ずっと話していた気がする。

 

3回目のデートでやっと自我を保てた。

それでも心臓は「バクバク」言っていた。

 

「好きです!」

5回目のデートでやっと言えた。

普通より早いか遅いかなんて

恋愛初心者の私にはわからない。

それでも自分の素直な想いを

これ以上、伝えられずにはいられなかった。

 

彼はにっこり笑った。

その表情に私は少し安堵した。

 

「ごめん。おれ婚約したんだ。」

 

私はその時どんな顔だったのだろう。

とにかく視界が狭くなった。

とにかく周りが暗くなった。

なにも言葉は出てこなかった。

 

気が付けば

泣いて一人で夜道を歩いていた。

 

どういうこと?

なんなの?

はじめから言ってよ。

こんなの普通なの?

 

恋愛初心者の私にはわからなかった。

ただただ、涙がこぼれ、苦しかった。

 

それから私はバイトをやめ

引っ越しをして、新たなスタートをきった。

 

私は、今では熱血OLだ!

教えられることばかりだった私も、

今では新入社員の教育もしている。

 

一人の男性がこう言った。

 

「今度映画に行きませんか?」

 

「ごめん!私は恋愛しないから!」

 

どういうつもりで彼が言ったのか、わからない。

私の答えにどう思ったか、わからない。

それでも今はそれでいい。

だって私は恋愛初心者。

恋をするのはまだまだずっと後でいい。