popoのブログ

超短編(ショートショート)

愛子

「何で参観日なのに顔出さなかったの?」

「悪い。仕事が忙しくて。」

「あの子も寂しそうだったわよ。」

そう言って妻は

俺の隣にビデオカメラを置いていった。

 

俺は再生ボタンを押した。

「さあ。愛子ちゃん。歌ってみましょう。」

と、ピアノを弾く先生。

音楽が流れる。

でも愛子は歌いださなかった。

「どうしたの?大丈夫だよ。」

「もう一回はじめからね。」

と、再びピアノを弾く先生。

音楽が流れる。

しかし愛子は歌いださなかった。

 

愛子はカメラの方に目を向けた後

下を向いてしまった。

「愛子ちゃん。今日はちょっと緊張してるのね。」

 

そのまま愛子の番は終わってしまった。

 

「愛子はどうしたんだ?」

「あなたは気付いていないのね。

 愛子がいつも部屋で歌っていたの。

 パパに聞いてもらうんだって。」

 

みんなとたのしく あそべるようになったよ

ほらねこんなに おおきくなったよ

ころんでもひとりで おきられるようになったよ

ほらねこんなに おおきくなったよ

ありがとうもてれずに いえるようになったよ

ほらねこんなに おおきくなったよ

 

家族との時間を犠牲にしてでも

仕事を頑張ることで、家族を守っている。

そう思っていた。

 

「愛する子ども」という意味で付けた「愛子」

俺は見失っていた大切なことに気が付いた。