popoのブログ

超短編(ショートショート)

一杯のココア

冬の訪れを告げるように、街は少しずつ色を変え始めていた。

澄み切った空気は、木々の葉を一枚、また一枚と地上へと誘い、

裸木になった街路樹が冬の到来を静かに告げていた。

 

そんな日の午後、私はいつものように小さなカフェに足を運んだ。

窓の外には、枯葉が舞い落ちる様子が目に映る。

今日のような日は、温かいものが飲みたい。

そう思った私は、迷わずメニューからホットココアを選んだ。

 

しばらくして、運ばれてきたココアは、想像以上に熱々だった。

ふぅふぅと息を吹きかけながら、スプーンでゆっくりと口に運ぶ。

濃厚なココアの香りが鼻腔を満たし、体の中から温まるのが分かる。

窓の外の景色を眺めながら、私はぼんやりと過去を思い出していた。

 

子供の頃、冬になると母が作ってくれたココア。

それは私にとって特別な飲み物だった。

 

大きなマグカップに注がれたココアは、まるで私を包み込むように温かく、

その香りは私を懐かしい記憶へと誘ってくれた。

 

「ほら。できたわよ。」

 

どこからか母の声が聞こえてくるようだった。

 

ココアを飲み終え、店を出ると、空にはもう夕焼けが広がっていた。

街の灯りが一つ一つ灯り始め、冬の夜が深まっていく。

 

冬の始まりを感じさせる冷たい風が頬を撫でる。

でも、心はココアで温まっている。

今日の一杯のココアは、私にとってただの飲み物ではなく、

冬の訪れを感じ、そして過去の自分と繋がる大切な時間となった。

 

この冬も、きっとこのココアのように、

温かい思い出をたくさん作ることができるだろう。

 

そんなことを考えながら、私は家路へと急いだ。