popoのブログ

超短編(ショートショート)

老婦人と店主

今日も、いつものように店を開けた。

窓の外には、若者たちの賑やかな声が響き渡る。

街は活気に満ちている。

 

「いらっしゃいませ!」

 

いつものように、笑顔で客を迎える。

今日もたくさんの笑顔が見られるだろう。そう思っていた。

 

しかし、今日はいつもと少し違った。いつもの常連客の姿がない。

いつも通りの時間に来るはずの学生グループも、今日は見当たらない。

 

「どうしたんだろう?」

 

少し不安になったが、深呼吸をして、

いつものようにメニューを準備した。

 

そんな時、一人の老婦人が店に入ってきた。

 

「あの…、ショーケースの中の、あのピンク色の飲み物は、何ですか?」

 

老婦人は、物憂げな表情でショーケースの中のメニューを指さした。

それは、イチゴ味のミルクティーだった。

 

「それはですね、イチゴの果肉をたっぷり使った、甘くて美味しいミルクティーなんですよ。おかあ様、いかがですか?」

 

老婦人は、少し考え込んでから、頷いた。

 

「じゃあ、それ一つください」

 

注文を受けて、私は丁寧にドリンクを作った。

 

「はい、どうぞ。温めますか?」

 

「いえ、冷たいままで」

 

老婦人は、ドリンクを受け取ると、窓際の席に座った。

 

しばらくして、老婦人が話しかけてきた。

 

「実は、私の孫が、この店のタピオカミルクティーが大好きだったんです。いつも一緒に来ていたのですが、病気で入院してしまいまして…」

 

老婦人の目は、潤んでいた。

 

「そうなんですか…」

 

私は、何も言えなかった。

 

「孫は、もうこの世にいません。でも、時々、この店の前を通ると、孫の笑顔が思い出されて…」

 

老婦人は、静かに話し続けた。

 

「あの頃、私たちはいつも一緒に来て、孫はこの店でタピオカミルクティーをいつも飲んでいました。孫は、このミルクティーが大好きで。ほら、この辺りではタピオカはこのお店にしかないし、とても美味しいって。いつも笑顔だったんです」

 

私は、老婦人の話を聞きながら、自分の作ったドリンクが、ただの一杯の飲み物ではないことに気づいた。

 

「おかあ様、このミルクティーを飲んで、少しでも元気になってください」

 

そう言うと、老婦人は私に感謝の言葉を述べた。

 

その日以降、老婦人は時々、店を訪れるようになった。

私たちは、色々な話をしながら、お茶を飲むようになった。

 

老婦人の話を聞くうちに、私は、自分が作るドリンクが、

ただ単に美味しければ良いというものではないことに気づいた。

 

ドリンクを通して、人々の心に触れ、

そして、人と人との繋がりを深めることができる。

 

私は、これからも、たくさんの人に笑顔を届けられるような、

そんな店にしていきたいと思った。

 

夕焼けが店を染め始めた頃、私は店を閉めた。

 

今日の出来事は、私の心に深く刻まれた。

 

私は、ただの一人のタピオカ屋の店主ではない。

 

私は、人々の心に寄り添い、そして、幸せを運ぶ存在なのだ。

 

そう確信した私は、明日もまた、笑顔で店を開けるだろう。