いってらっしゃい!頑張って!元気でね!
多くの声に見送られ私は生まれ育った田舎を出る。
迎えのフェリーがやってくる。
家族、友達、先生。一生懸命手を振るが涙でみんなの顔がよく見えない。
これが上京したころの思い出だ。
都会の生活は大忙し。同じ時間を刻んでいるとは思えないほど時間が早い。
ゆっくり朝食なんてとれないまま、慌てて家を飛び出して
ぎゅうぎゅうの汗くさい電車に乗り、とても長い階段を上る。
会社について一息したら目の前のPCが「さあ始めるよ!」と立ちあがる。
気が付けばあっという間にお昼になる。ランチなんて呼べない昼食をとる。
その後エナジードリンクなんてものを飲みながら
ひと段落して「おつかれさまです」と会社を出る。
外はすでに暗くなっている。
またもぎゅうぎゅう・・・まあ朝よりは少しマシか。
そう思いながら電車に乗り家に着く。
もうくたくたで足パンパン。コンビニで買った簡単な食事をとって一日が終わる。
これが私の若い頃の思い出だ。
結婚して子供もとっくに成人を迎え、孫までいる。
私の顔はしわくちゃで髪は白いものが目立っている。
体が動くうちにもう一度田舎で暮らそうと私は再び故郷に戻る。
フェリーを降りると静かなもの。
海沿いを歩いてみるがあるのは空き家の商店ばかり。
もう少し。と陸のほうへ歩いてみるがあるのは空き家の古民家ばかり。
さらにもう少し歩いてみると畑の中におばあちゃんを見つける。
ふと目が合うと「もってけ」と野菜をくれる。これでもかと袋いっぱいに。
昔は100といたこの町も今では20とちょっと。
見送ってくれた家族もいない。友達も先生もいない。
それでも町はあり続けている。
それでも私はここが好きだ。
幸せかと聞かれたら・・・
寝たいときに寝て。起きたいとき起きて。食べたいとき食べて。花もあれば海もある。
こんな贅沢申し訳ないわ。
さてさて今日の昼食とろうかしら