popoのブログ

超短編(ショートショート)

旋回中

「只今、上空天候悪化のため、

 当機は着陸できずにおります。

 大変にご迷惑をお掛けいたします。

 予定時間が遅れますことを

 心からお詫び申し上げます。」

機内からは落胆のため息が聞こえる。

 

10分、20分と旋回する飛行機に

機内では不安の声も聞こえてきた。

 

「お客様。お客様。誠に勝手ながら

    少しお話させていただきます。」

突然始まったCAのアナウンスに

乗客は耳を傾けた。

 

「以前に当航空機で起きた出来事です。

 着陸後、乗客の皆様が順番に席を立つ中、

 ひとりの女の子だけが座ったままでした。

 最終的に女の子は最後の乗客になりました。

 居合わせたキャビンアテンダント

 女の子に話しかけました。

 長かったね。やっと着きましたよ。

 すると、女の子は首を横に振って

    泣き出しました。

 キャビンアテンダントは笑顔で話しかけ

 背中をゆっくりと、さすりました。

 女の子は徐々に落ち着いて、話をしてくれました。

 彼女は一人で、離れて暮らす父親に

 会いに来たとのことでした。

 お父さんとは2年ぶりの再会。

 まだ幼い女の子は、お父さんの記憶も

 曖昧で、不安だったのです。

 怖かったのです。

 また、ひとりで居る機内での時間が

 その不安を大きくさせたのです。

 キャビンアテンダントは焦らずに

 女の子のペースでゆっくり手を引いて

 一緒に機内を降りました。

 女の子は笑顔を取り戻しました。

 もうすぐお父さんに会えるね。

 きっと楽しみにしているはずですよ。

 そう声をかけながら歩くキャビンアテンダント

 女の子は憧れを抱きました。

 それから20年の時間が経って、

 女の子だった私は今皆様と一緒にいます。」

 

「不安があるかもしれませんが、

 大丈夫です。私共が一緒におります。」

 

「この飛行機は間もなく着陸致します。

 最後にもう一度、シートベルトが

 しっかり締まっているか、ご確認ください。」