popoのブログ

超短編(ショートショート)

失った思い出

 

時刻は午後7時を少し過ぎたころ。

プルルルル

「もしもし。」

「あなた。早くドア開けてよ。」

「えっ?なに?」

「玄関を開けて!インロックかかってるわよ。」

「えっ!?俺はまだ会社だよ。」

「だって部屋の電気ついてるわよ!」

(俺は必死に考える)

「おい!離れろ!泥棒じゃないか!」

「えっ!わ。わかった。どうすればいい?」

「とにかく外に出て!遭遇したら危ないから!」

「わかった。」

 

「もしもし!警察ですか!?

 家に!家に泥棒が!」

 

その後俺は慌てて帰宅し不安そうな妻と合流した。

 

「ご主人さまですか?警察のものですが」

「はい。」

「どうやら窓ガラスを割られて入られたみたいです。

 幸いにも犯人はもう居ませんでした。」

(幸い?)

「もう部屋に入っていただいて構わないので

無くなっているものないか確認いただけますか。」

 

俺たちは荒らされた部屋に入った。

妻はその様子をみて泣き出した。

無くなっていたのは時計に少し置いていた現金。

そして飾ってあった婚約指輪だった。

こんなことが現実に起きるなんて考えてもいなかった。

もし妻が遭遇していたらどうなっただろう。

考えるだけで恐ろしくなる。

(幸いかぁ)

 

無くなったものは返ってこないだろう。

時計や現金は保険で何とかなるみたいだ。

ただ俺たちの思い出までも持っていかれた。

さすがに俺もその辛さには耐えられない。

「ごめんな。」

咄嗟に出た言葉だった。

 

どうしていいかもわからない。

どうしていたらよかったのかもわからない。

警察からのアドバイスは「窓にも二重ロックを。」と。

 

俺は悔しさと悲しさでいっぱいだった。

俺は未だ泣きながら片付けをする妻を

そっと抱いた。