深夜、僕は疲労困憊でタクシーに乗り込んだ。
今日一日の仕事の失敗が頭の中をぐるぐると回り、
重苦しい空気が僕を包み込んでいた。
目的地を告げると、タクシーは静かに走り出した。
車内には、落ち着いたジャズの音楽がかすかに流れている。
運転手さんは何も話さず、ただ前を向いて運転していた。
しばらくして、運転手さんが優しい声で話しかけてきた。
「今日は大変でしたか?」
僕は思わず、今日の出来事を話してしまった。
「やっちゃったんですよ・・・」
プロジェクトの失敗、上司からの叱責、
そしてどうしようもない自分の無力感。
運転手さんは黙って僕の話を聞いてくれた。
そして、僕が話し終えると、静かに語り始めた。
「お客さん!私も若い頃は、失敗ばかりでしたよ。でもね、失敗は無駄にはならない。失敗をすることで、人は成長するんです。今日の失敗も、きっとあなたの未来に繋がりますよ」
その言葉は、不思議と僕の心に深く響いた。
車窓の外に目をやると、街のネオンが、ぼんやりと輝いている。
運転手さんは、さらに続けた。
「タクシーに乗ってくれるお客さんには、色々な方がいます。人生の喜びを分かち合ってくれる人もいれば、あなたのように辛い思いを話してくれる人もいる。でもね、どんなお客さんでも、みんな一生懸命に生きている。私も、そんなお客さんの人生を少しでも支えられたら、って思って、この仕事を続けてるんです」
その言葉を聞いて、僕は胸が熱くなった。
見ず知らずの他人が、僕の心をこんなにも温かくしてくれるなんて。
目的地に着き、料金を払おうとすると、
運転手さんは「頑張ってくださいね」と、にこやかに言ってくれた。
僕はタクシーを降り、夜空を見上げた。
雨はいつの間にか止んでいた。
運転手さんの言葉が、僕の心に温かい光を灯してくれた。
タクシーは、ただの移動手段ではない。
それは、心を癒し、明日への希望を与えてくれる、
小さな安らぎの空間だと気が付いた。