popoのブログ

超短編(ショートショート)

心温まるタクシー

深夜、僕は疲労困憊でタクシーに乗り込んだ。

今日一日の仕事の失敗が頭の中をぐるぐると回り、

重苦しい空気が僕を包み込んでいた。

 

目的地を告げると、タクシーは静かに走り出した。

車内には、落ち着いたジャズの音楽がかすかに流れている。

運転手さんは何も話さず、ただ前を向いて運転していた。

 

しばらくして、運転手さんが優しい声で話しかけてきた。

 

「今日は大変でしたか?」

 

僕は思わず、今日の出来事を話してしまった。

「やっちゃったんですよ・・・」

プロジェクトの失敗、上司からの叱責、

そしてどうしようもない自分の無力感。

 

運転手さんは黙って僕の話を聞いてくれた。

そして、僕が話し終えると、静かに語り始めた。

 

「お客さん!私も若い頃は、失敗ばかりでしたよ。でもね、失敗は無駄にはならない。失敗をすることで、人は成長するんです。今日の失敗も、きっとあなたの未来に繋がりますよ」

 

その言葉は、不思議と僕の心に深く響いた。

車窓の外に目をやると、街のネオンが、ぼんやりと輝いている。

 

運転手さんは、さらに続けた。

 

「タクシーに乗ってくれるお客さんには、色々な方がいます。人生の喜びを分かち合ってくれる人もいれば、あなたのように辛い思いを話してくれる人もいる。でもね、どんなお客さんでも、みんな一生懸命に生きている。私も、そんなお客さんの人生を少しでも支えられたら、って思って、この仕事を続けてるんです」

 

その言葉を聞いて、僕は胸が熱くなった。

見ず知らずの他人が、僕の心をこんなにも温かくしてくれるなんて。

目的地に着き、料金を払おうとすると、

運転手さんは「頑張ってくださいね」と、にこやかに言ってくれた。

 

僕はタクシーを降り、夜空を見上げた。

雨はいつの間にか止んでいた。

運転手さんの言葉が、僕の心に温かい光を灯してくれた。

タクシーは、ただの移動手段ではない。

それは、心を癒し、明日への希望を与えてくれる、

小さな安らぎの空間だと気が付いた。