ゆっくりと工場を歩いて回る。
気付けばもう80を迎える。
木工所を始めて40と4年。
建物と共に歳をとった。
昔は自身の足で営業をして数多くの物を作ってきた。
机。椅子。時計。タンス。
やがて裏の山を買い、木を切っては材料にした。
多い時は従業員も20人ほどだった。
工場でモノづくりに励む者。木を伐る者。
営業に出る者。事務所を守る者。
みんなに仕事を与え、みんなは期待に応えてくれた。
「ありがとう」
ある日、ひとり息子はこう言った。
「おやじ。俺上京する。やりたいことあるんだ。」
そして出ていき、後継ぎにはならなかった。
ゆっくりと機械を撫でてみる。
残ったのは会社という名前と、動かすことのない機械。
未だ凛と立つ山の木々と古びた建物。
いつか息子が。という淡い期待も叶わなかった。
「もうそろそろ潮時か」
プルルルル。電話がかかってきた。
「じいちゃん!」
もうすぐ30半ばになる孫からだった。
「俺受かったんだ。家具製作技能士。」
初耳だった。
そんな勉強をしていたことさえ、知らんかった。
「受かるまで黙っていたんだ。落ちたら恥ずかしいだろう?ごめん。」
「今からでも仕事教えてよ!」
「俺。じいちゃんの後継ぐよ。」
長生きするもんだなあ。
足早に慌てて何年かぶりに機械の電源をいれる。
「しっかりやれよ!」