静寂に包まれた海面が、
少しずつオレンジ色に染まっていく。
まだ誰もいない浜辺に、私は一人で立っていた。
私は、マグロ漁師である父を待っていた。
父は毎年、この時期になると数週間かけて漁に出る。
私は、幼い頃から父の出航を見送り、
そして、帰りを心待ちにしてきた。
海を見つめながら、
私は昨日の母との会話を思い出していた。
「お父さん、今年も無事に帰って来られるかしら?」
母は、心配そうに言う。
「大丈夫だよ、お母さん。お父さんはベテランだから。」
私は、強気な声で答える。
しかし、心の中には、不安が渦巻いていた。
私は、父が大好きだ。
一緒に釣りに行ったり、海の話をしてくれたり、
いつも優しい父は私のヒーローだ。
でも、父は危険な仕事をしている。
毎年、何人もの漁師が命を落としている。
私にできることは、
ただただ父が無事に戻って来ることを願う。
それだけだった。
しばらくすると、漁船が近づいてきた。
私は、船を指さして、母に告げる。
「お父さんだよ!」「帰って来たよ!」
漁港に私たちは走る。
到着を待つ母は、目を輝かせて船を見つめる。
船が近付き、父の姿が見えた時、
父は私と母に向かって手を振った。
それを見て私と母は、手を振り返す。
父は、船を岸につけると、
私と母のもとに駆けてきた。。
「おかえりなさい!」
「心配かけたな。でも、もう大丈夫だ。」
そう言って私と母を抱きかかえる。
私の目からは、涙が溢れた。
「本当に、無事に戻って来てくれてよかった。」
大丈夫って言い聞かせても、
心の奥では不安で仕方ないのだ。
それでも私はこの瞬間がいつも愛おしい。
どんなに離れていても、家族の心は繋がっている。
そう思える時間だ。
私の涙はこれからもずっとずっと朝焼けの海と共に続いていく。