popoのブログ

超短編(ショートショート)

映画監督

ベテラン映画監督の私は、新作映画の撮影に悩んでいた。

過去の成功体験にとらわれ、

脚本に書かれた世界観を完璧に再現しようと、

役者たちに細かな指示を出していた。

しかし、役者たちの表情は硬く、カメラの前に立つのが苦痛そうに見えた。

 

ある日、私は若手女優と話す機会を得る。

「監督の言葉通りに演じようとすると、自分の気持ちがわからなくなってしまう」

と打ち明けた。

その言葉に、私の言葉はどこかで

役者たちの創造性を縛り付けていたのかもしれない。

そう思った。

 

翌朝、役者たちに集まってもらった。

役者たちの目はどこか虚ろだった。

「みんなは素晴らしい演技力がある。」

「脚本はあくまで脚本だということ。」

「みんなの想いが人々を魔法にかける。」

「そして、その魔法は監督の頭の中で生まれるのではない。

役者の心の中で生まれるのです。」

「さあ、魔法をかけましょう。」

「あなたたちの心の中には、本当の魔法を生み出す力があるはずです。」

 

撮影が再開された時、

役者たちはまるで別人になったかのように演じ始めた。

役者たちの目は輝き、言葉一つ一つに重みがこめられていた。

魔法の呪文を唱える声は、力強く、皆の心を揺さぶる。

 

完成した映画は、多くの観客の心を掴んだ。

私は高い評価を受け、再び注目を集める監督となった。

 

「監督!一言お願いします」

 

「私はこの映画撮影で、大切なことを学んだ。

   この映画の素晴らしいところは、

   脚本には書かれていない、

   役者たちの心の奥底から生まれる感情の深さだ。」