popoのブログ

超短編(ショートショート)

送り火

「この炎は、皆を導く光であり、私たちをあの世へ送る道しるべだ。」

 

私は、この集落で生まれ育ち、多くの思い出を刻んだ。

はだしで駆けまわり、勉学に励み、恋愛もした。

そして生前の私は、この集落で医者をしていた。

村人たちの健康を守り、悩みを聞き、時には叱ることもあった。

 

その中のひとりに、彼がいた。

彼は、少し内向的で、将来に対する不安を隠せない子だった。

 

夏の夜、静寂に包まれた集落。

 

古くからの風習である送り火が夜空を染めていく。

 

彼は今、たき火にあたっている。

 

その表情は、物思いにふけっているようだった。

 

彼は大学を卒業後、地元に戻り、家業を手伝っていたが、

将来への展望が見えず、やる気も失せていた。

そんな中、今回の送り火の行事は、

彼にとって、ひとつの区切りとなるものだった。

 

「このままじゃダメだって分かってるけど、どうすればいいのか……」

 

「やりたいようにやってみなさい」

「過去にとらわれるな。悩みから目をそらすな」

「君は今、ここにいる。」

「ただそれだけ。それだけなんだ。」

 

その言葉が彼には聞こえた。

 

私はこれからも多くの村人を見守っていく。

ひとりでも多くの若者が、

ひとりでも多くの人が、

将来に希望を持ち、明るい毎日を送ってくれることを

私は心から願っている。

 

「また来年帰ってくるよ」

 

そう言い残して、私は天へと昇っていく。