popoのブログ

超短編(ショートショート)

すぐやる男

東京の片隅にある小さなデザイン事務所で働く、彼は、

周囲から「すぐやる男」と呼ばれていた。

それは決して彼の性格がせっかちだからというわけではなく、

彼の中に深く根ざした、ある信念があったからだ。

 

「すぐにやらなければならないものは、すぐにやり得るものは、すぐにやる。」

 

これは、彼が学生時代に読んだ一冊の本で出会った言葉だった。

その言葉は、彼の心に深く刺さり、以来、彼の行動原理となっていた。

 

彼は、仕事が舞い込むたびに、その言葉をかみしめていた。

締め切りが迫っている案件、簡単な作業、上司からの突然の依頼、

どんな仕事であっても、彼はためらわずに取り掛かった。

 

「今やらなくてもいいか」

 

そんな悪魔のささやきが聞こえてくることもあった。

しかし、彼はすぐにそれを打ち消した。

 

「今できることを後回しにすれば、その分、あとで時間がなくなる。今やるべきことを今やる。それが、仕事人としての責務だ。」

 

彼の効率的な仕事ぶりは、周囲の信頼を勝ち得ていた。

彼の机はいつも整理整頓されており、必要な資料はすぐに取り出せる。

クライアントからの問い合わせにも、迅速かつ丁寧に対応した。

 

ある日、彼の勤めるデザイン事務所に、

大手の広告代理店から大きな案件が舞い込んできた。

それは、彼にとって初めての大きなチャンスだった。

 

しかし、同時に大きなプレッシャーも感じていた。

納期は厳しく、求められるクオリティも高かった。

 

「これは、今まで以上に集中して取り組まなければならない。」

 

彼は、その言葉をかみしめながら、仕事に取り掛かった。

昼夜を問わず、デザイン画を描き、プレゼン資料を作成した。

「残りは明日でいいか」そんな言葉もかき消した。

彼は決して諦めなかった。

彼は、自分の目標に向かって、ひたすら突き進んでいった。

 

そして、ついに締め切りの日が来た。

彼は、自信に満ちた表情でプレゼンテーションを行った。

 

資料は一週間ほど前に出来上がり、何度も見返した。

もっとわかり易い文章はないか?

もっと必要な説明はないか?

何度も何度も見返しては、訂正を重ね、

完璧なプレゼン資料を作り上げていた。

 

そして、彼の熱意と誠意は、クライアントの心を打ち、

見事、プロジェクトは成功を収めた。

 

プロジェクトの成功後、上司から大きな賞賛を受けた彼は、

改めて自分の決意を固めた。

 

「すぐに取り掛かったので、十分な準備が出来ました。

これからも、この言葉を胸に、どんな仕事にも全力で取り組んでいきたい。」

 

彼は、これからも「すぐやる男」として、周囲を明るく照らし続けるだろう。