popoのブログ

超短編(ショートショート)

歌い続ける

物語の舞台は、大都市の喧騒と夢が渦巻く街。

彼女の名は「Mime(ミメ)」。

自分の音楽で人々に感動を届けたいという強い願望を抱いる。

今日も夕方に、いつもの駅の、いつもの場所に立つ。

ギターを弾きながらMimeは歌う。

行き交う人は足を止めることはない。

少し彼女を見ては、軽く笑い、目をそらす。

時折、音がはずれる。リズムが狂う。それでもMimeは懸命に歌う。

そう。彼女は生まれつき聴覚障害を抱えている。

彼女は周囲の人々から「音楽をやめた方がいい」と言われることもある。

それでも彼女は懸命に歌う。

ひとりの若者が立ち止まる。Mimeを見つめる。

そして、

「おい。へたくそ。うるせえ。」

その言葉に思わずMimeの音楽は止まる。

彼女はうつむき、次第にあふれる涙。悔し涙だ。

「どうして・・・」「どうして・・・」

 

次の瞬間、

グッ!

彼女は睨みつけるように若者を見る。

そして手を動かす。いつもより激しく。力強く。

「少し寂しそうな君に こんな歌を聴かせよう 手を叩く合図 

雑なサプライズ 僕なりの精一杯」

「君はロックなんか聴かないと思いながら 少しでも僕に近づいてほしくて

ロックなんか聴かないと思うけれども 僕はこんな歌であんな歌で 恋を乗り越えてきた」

その歌は完璧なものだった。

行き交う人も足を止め、その場所にいる皆が聞き入った。

歌が終わるとMimeに向けて送られる拍手は、もの凄く大きかった。

彼女は正面を向いたまま、次第にこぼれる涙。嬉し涙だ。

「みんな!ありがとう。」

「私は耳が不自由です。それでも夢は諦めません。」

彼女の想いが、困難を乗り越えた瞬間だった。

「私の名はMime。」

「Music is my everything 」

「音楽は私のすべてです。」