popoのブログ

超短編(ショートショート)

消えない痛み

天才・ファンタジスタ・レジェンド・魔術師

俺は様々な呼び名でみんなに愛された。

 

俺は今から40年と少し前に、大家族に生まれた。

そして、母子家庭だった。

その為か、家は普通とは決して呼べない程の暮らしだった。

拾ってきたボロボロのボールを投げたり、蹴ったり。

それが俺たち兄弟の充分な遊びだった。

 

ある日、俺は一人でボールを蹴って遊んでいた。

すると一人の男性が近づいてきた。

「うまいなぁ!どうだ。うちのチームでやらないか?」

俺は嬉しかった。でも家は貧しかった。

「でも・・・。」

「大丈夫。お金はいらない!一緒にサッカーをしよう!」

その言葉に断る理由はなかった。

それからというもの、皆とサッカーできることが楽しかった。

一人じゃない。仲間がいる。楽しい。

それが俺を成長させてくれた。

 

「すごい奴がいるぞ!」

「10人抜いたらしいぞ!」

俺は知らぬ間に日本中に知られる存在になった。

俺は何人でも抜ける!誰にもボールは渡さない!

その気持ちが、また俺を成長させてくれた。

 

俺はそれから、選抜に選ばれた。

プロにもなれた。海外にも行った。

日本代表にも選ばれた。

あとは俺のやりたいチームに行くんだ!

そんな矢先に起きた大怪我。

俺はサッカーを始めて、

初めてイメージが浮かばなくなった。

 

それでも何とか食らいついてやってきた。

サッカーが楽しくてしょうがなかったから。

でも、もう体はボロボロだった。

消えない痛み。

これが俺の「引退」を示していた。

 

俺のサッカー人生は幸せだった。楽しかった。

この喜びをみんなに伝えたい。

そしてあの時、声をかけてくれたコーチに

「ありがとう」と伝えたい。