小さな頃から、街のレストランの
ショーウィンドウに並ぶ食品サンプルを見るのが
大好きだった少女。
そう。それが私。
本物の食べ物のように精巧に作られたサンプルは、
私の心をときめかせ、空腹を忘れてしまうほどだった。
細かければ細かいほど、特に興味を持った。
そんな私が成長し、
念願だった食品サンプル製作会社に就職した。
入社当初は、憧れの仕事に就けた喜びで胸がいっぱいだった。
しかし、実際にサンプル作りに携わってみると、
その道のりは想像以上に険しいことに気づく。
食品サンプル作りには、高度な技術と深い知識が必要だった。
素材の特性を理解し、色彩を正確に再現し、
本物そっくりな形に仕上げなければならない。
私は失敗を繰り返した。
私が目指したのは、ただ単に
本物そっくりなサンプルを作るのではなく、
見る人の五感を刺激するような、
リアルな作品を作ることだった。
食材の質感や温度感、
さらには美味しそうな香りまで表現したいと考えた。
私は、食材をじっくり観察し、
試行錯誤を重ねる。
本物の食材を断面で観察したり、
触ったり、匂いを嗅いだりした。
しかし成果を上げるためには時間を要した。
先輩が作ったサンプルは、まさにそれだった。
まるで本物の食べ物のように輝いていた。
正直…悔しかった。
正直…情けなかった。
(なにが五感を刺激するようなリアルな作品だ)
私の作品は、それには程遠かった。
ある日、私は先輩に連れられて
郡上八幡の町を訪れた。
そして、そこで目にしたのは、
オムレツの食品サンプルだった。
そのオムレツには人の温もりがあった。
私は、こだわるがあまりに、
“料理“という気持ちを忘れていた。
技術だけじゃない。
“つくる楽しみ。つくる喜び。”
私はそれを学んだ。
今では私は、食品サンプルの可能性を広げたいと考えている。
従来のショーウィンドウ用のサンプルだけでなく、
教育や医療の現場でも役立つようなサンプル作りに挑戦したい。
栄養指導用のサンプルは、
食材の組み合わせや量を視覚的に分かりやすく伝えることができる。
医療現場では、
手術の練習用や患者への説明用としての活用ができる。
私は、食品サンプルの可能性を信じて、
今日も新しい挑戦を続けている。