popoのブログ

超短編(ショートショート)

村はずれの古井戸

夏の暑い日差しの中、子供たちは井戸端で涼んでいた。

その井戸には、昔、ある少女が落ちたという言い伝えがあった。

 

「昔、この村に、とても美しい少女がいたんだ。

その子は、村一番の井戸の水が大好きで、毎日ここに汲みに来ていたんだ。

ある日、いつものように井戸のそばに立っていた時、

ドン!! 彼女の美しさに嫉妬した誰かが、彼女の背中を押した。

そして、そのまま井戸の中に落ちてしまったんだって。」

 

年老いたおばあちゃんが、子供たちに語り始めた。

 

「それからというもの、夜になると

井戸から少女の泣き声が聞こえるようになったんだ。

村の人たちは、かわいそうに思い、毎日お供え物をしていたよ。」

 

子供たちは、おばあちゃんの話を聞きながら、

井戸の中を覗き込んだ。

井戸の水は、青黒く深淵のように見えた。

 

「でも、ある日、お供え物が全部なくなってしまったんだ。

村の人たちは、誰かが盗んだのかと思ったけど、そんなはずはない。

だって、誰もこんな暗い夜中に、こんな怖い場所に来るわけがないだろう?」

 

おばあちゃんの声が震え始めた。

子供たちは、息を呑んでおばあちゃんの話を聞いた。

 

「それからしばらくして、村の若者が一人、行方不明になったんだ。

村の人たちは、きっと井戸の怨霊に引きずり込まれたんだと思った。

それ以来、誰も井戸のそばには近づかなくなったんだ。」

 

おばあちゃんの話は、子供たちの心に深く刻み込まれた。

 

それから数年後、村に新しい家が建ち、その家に若い夫婦が住むようになった。

ある夜、その夫婦は、奇妙なことに気がついた。

寝室で寝ていると、どこからともなく、子供の泣き声が聞こえてくるのだ。

 

「きっと、気のせいかもしれない。」

 

夫はそう言って、妻をなだめたが、

泣き声はますます大きくなった。

そして、ある朝、妻は発熱し、

ベッドから起き上がることができなくなった。

 

医者に見てもらったが、原因はわからなかった。

妻は、衰弱していく中で、何度も同じ言葉を繰り返した。

「助けて…、暗い…、怖い…」

 

そして、ある満月の夜、妻は静かに息を引き取った。

 

その後、その家は空き家となり、

村の人たちは、再び井戸の噂話を語り始めた。

 

「あの少女は、今もなお、誰かを待ち続けているのかもしれない。」

 

「それとも、この村を呪っているのかもしれない。」

 

 

 

子供たちのひとりが帰り道に口を開いた。

 

「ねぇ。あのおばあちゃん…いつからいたの?」

 

「それに…あたまケガしていたよ。」

 

子供たちは互いの顔を見ながら、恐怖で黙り込んでしまった。

 

おばあちゃんは、あの少女なのか?

 

おばあちゃんは、なぜこの話をしたのか?

 

誰も真相を知ることはできない。