popoのブログ

超短編(ショートショート)

バスが語る物語

「今日もたくさんの人が乗ってくるだろうな。」

 

私は、街を走るバスだ。

毎日、決まったルートを何度も往復している。

窓の外には、人々の生活が

刻々と変化していく様子が映し出される。

 

朝、眠そうな学生たちが乗り込んでくる。

窓際の一席を陣取り、スマートフォンをいじったり、

本を読んだりしている。

若さゆえの希望と不安が入り混じったような、

そんな表情をしている。

 

昼休みには、お年寄りとサラリーマンたちが乗り込んでくる。

疲れた表情でつり革につかまり

次の駅での乗り換えを心待ちにしているサラリーマン。

仕事での悩みやストレスを抱え、家に帰りたい一心なのだろう。

お年寄りに席を譲るサラリーマン。

お辞儀をして「ありがとう」と言うお年寄り。

何だか、あたり前の日常が少し晴れやかになった気分だ。

 

夕方になると、買い物帰りの主婦たちが大勢乗ってくる。

大きな荷物をかかえ、今日の出来事を友人に話しかけている。

家族のために一生懸命働いている姿が目に浮かぶ。

 

夜、街の灯りが輝き始めると、

恋人たちが手を繋いで乗り込んでくる。

窓の外の景色を二人で眺めながら、幸せそうな笑顔を浮かべている。

 

私は、ただそれらを静かに見守っているだけだ。

それぞれの物語が、私の車内で紡がれていく。

喜怒哀楽、様々な感情が入り混じり、

それが私の心を満たしていく。

 

ある日、一人の老人が乗ってきた。

窓の外をじっと見つめ、遠い昔の思い出に浸っているようだった。

彼は、私に語りかけてきた。

「君のおかげで、毎日楽しく過ごせているよ。ありがとう。」

 

私は、言葉を発することはできないが、

彼の言葉が心の奥底に響いた。

 

私は、ただのバスかもしれない。

でも、たくさんの人と出会い、

それぞれの物語を乗せて走っている。

人々を繋ぎ、それぞれの目的地へと運ぶ存在なのだ。

 

そして、街の人々の生活の一部になれること、

それが私の最高の喜びなんだ。

 

「さあ、今日も一日、たくさんの人と出会えるのが楽しみだな。」

 

雨の日も、風の日も、私は走り続ける。

街の風景は刻々と変化していくが、

人々の心に灯る光は、いつまでも変わらない。

 

私は、これからもたくさんの人と出会い、

それぞれの物語を紡いでいきたい。

それが、私の使命なのだから。