popoのブログ

超短編(ショートショート)

目的地のない散歩道

夏の終わりを告げるような風が頬にあたる。

静かな街角には、枯れ葉がこぼれ落ちていた。

 

今日はどこへも行かずに、ただ何となく、気の向くままに歩こう。

そんな思いが、ふと思い浮かんだ。

 

いつもの通勤路を少しだけ外れて、細い路地裏へと足を踏み入れる。

ひっそりと佇む古い民家や、どこか懐かしい香りのする小さな雑貨店。

普段は気にもとめなかった風景が、今日は新鮮に映る。

 

道端には、小さな花が可憐に咲いている。

名前も知らない花だが、その姿に心が安らぐ。

しばらくその花に見入っていると、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえてきた。

 

生垣の陰から、一匹の黒猫がこちらを見ている。

警戒しながらも、少しだけ近づいてみると、

猫はくるりと踵を返し、どこかへ行ってしまった。

そんな何気ない出来事にも、心が温まる。

 

私はスマホの地図を開いて、見慣れない路地を辿ってみる。

地図にある僅かな緑。拡大してみると小さな公園だった。

私はゆっくりと歩き公園に着くと、ベンチに座って一休み。

 

木漏れ日の中、本を開いてみるが、

文字を追うよりも、周りの風景に見とれてしまう。

 

いつの間にか、すっかり日が暮れてきた。

街は、昼とはまた違った表情を見せている。

煌々と輝くネオンサインや、通りを歩く人々の賑やかな声が、

どこか都会の喧騒を感じさせる。

 

お腹が空いたので、適当に入った居酒屋で一杯。

カウンターに座り、地元の常連客との会話に花を咲かせる。

今日あった出来事を話すと、みんなが興味津々で聞いてくれる。

 

満腹になり、店を出ると、夜空には満月が輝いていた。

帰り道は、いつもより足取りが軽い。

 

今日は何も特別なことはなかった、ただ普通の一日。

そして、その一日がとても豊かな一日にも感じる。

 

目的地を決めずに、ただ何となく歩いた時間。

そんな自由な時間は、心の栄養になるのかもしれない。

 

次はどこへ行こうかな。