popoのブログ

超短編(ショートショート)

素のわたし

「君が好き!ずっとずっと!君が好き!」

部屋の中で熱唱する私。

その姿に驚いていた彼も

今は平然とスマホの画面を見ている。

私はスマホを片手にアプリを起動して

歌を一生懸命に唄う。

狙うはもちろん高得点。

決して小声でなんて、彼のことは気にしない。

全力で唄って見せる。

そして時折こっちを見てニコッと笑う彼が好き。

同棲をしてもう三年。

お互いの趣味やお互いのクセ。

お互いの性格はもう充分わかっている。

彼が怒る言葉もわかっている。

彼が喜ぶ言葉だってわかっている。

彼だって私が喜ぶ言葉を知っている。

私が喜ぶ行為だって知っている。

でも何でここ何か月も言ってくれないの?

でも何でここ何か月してくれないの?

私のことわかってるよね?私のこと忘れたの?

すると今度は私がひねくれる。「もういい!」

気が付くと彼の嫌なことを言っていた。

気が付くと彼の嫌なことをしていた。

そして当然のように私たちの生活は終わりを迎えた。

 

あれから何年経ったかな…。

今でも思い出すのは彼のニコッとした笑顔。

次の恋愛だってしたのに。

それでも思い出すのは全力で歌う私と笑顔の彼。

そういえばあんな私の姿を見せることができたのも

彼だけだった。

毎日ありのままの自分でいたあの頃。

全力でふざけて、全力で笑って、全力で泣いて、

全力で怒って。そして全力で喜んだ。

本当の私を知っているのは彼だけ。

きっとこれからも私はどこかで着飾っていくのかな…。