popoのブログ

超短編(ショートショート)

ピアノと私

私は、自分からやりたいことに向かえない。

本当はやりたいのに。

本当は話したいのに。

私は行動に出ることができない。

高鳴る鼓動が私を制止させる。

 

幼い時みんなが砂場で遊んだり、

みんながおままごとで遊んだり。

でも私はそこに入れない。

いつも一人で見ているだけ。

 

「こっちでみんなと遊んだら?」

その一言が私には辛かった。

 

ある日「これどう?」と手渡された人形。

私はチェリーと名前を付けた。

私は部屋でチェリーに話しかける。

次の日も。その次の日も私はチェリーに話しかける。

私は充分楽しかった。寂しくなかった。

 

でも周りは「暗い子ね」という。

私はただ自分から話しかけられないだけなのに。

本当はいっぱい話したいし、本当はいっぱい遊びたいのに。

 

小学校にあがる頃「これどう?」とピアノ教室の案内。

「やってみたら」の一言が

私の人生を変えてくれた。

 

指先の感覚が私を表現してくれる。

音とその空間が私を自由にしてくれる。

私の今の感情を日に日に表現できるようになる。

それが楽しい。

うまく表現できるたびに私は達成感を感じる。

それが嬉しい。

 

今日はいいことでもあったの?

今日はちょっと苛立っているのかな?

ピアノの音が私の気持ちを伝えてくれる。

私だけの音楽。これが私の会話。

 

ある日私のピアノを聴いて

「ありがとう」と言ってくれた人がいる。

私はこれほどまでに嬉しかったことはない。

自分なりの表現だったから。

誰かに「ありがとう」だなんて。

 

今でも自分からは行動に出られない。

今でも言葉は多く出ない。

それでも大人になった私を「暗い子ね」なんて言う人はいない。

音楽は言葉を必要としない。そう言った人がいるという。

今ではその言葉がよくわかる。

 

私なりの表現で今日も私はピアノを弾く。

チェリーの隣で。