愛、おめでとう。幸せになれよ。よかったね。
わたしは会社の旅行でサイパンに来ていた。
そしてこの場所は、けんちゃんとも最初に旅行した場所。
わたしはこの旅行から帰ったら、けんちゃんのプロポーズを受けるつもり。
周りからも祝福され、わたしは幸せだった。
これほど彼を愛おしく思う時はあっただろうか。
帰りが待ち遠しかった。
そして迎えた帰国のとき、わたしは家が近づくにつれ笑顔が我慢できなくなっていた。
かばんから慌てて鍵を取り出して扉を開けた。
けんちゃんに思いっきり抱きつこう。そう決めていた。
「ただいま!」勢いよく扉を開ける。
この瞬間に異変に気付いた。
部屋は暗く静かで、人の気配を感じなかった。
わたしは慌てて彼を探す。
いない。どこにもいない。わたしは混乱していた。
当てもないけど慌てて外に出ようと思った。
するとさっきは目に入らなかった手紙があった。
そこには「ごめん」ただこれだけだった。
わたしは再び混乱した。言葉も失い。ただただ…けんちゃん…
現実を受け止めるのにはかなりの時間がかかった。
彼の荷物がない部屋でわたしはただただ泣いていた。
目に映る部屋の中がわたしを余計に苦しめた。
次の日も、その次の日も、わたしは会社にすら行けなかった。
その苦しみから数年が経った。
あれからというものわたしには気力も活力もなかった。
ただただ一日一日を過ごしていた。
「じゃあな。」会社からの帰り、駅の改札口を出たあたりだった。
ふと男性の声が聞こえた。
えっ。。。一瞬時が止まる。
そこには彼がいた。慌てて後を追いかける。
「けんちゃん!」「あっ…あいさん。」
そこにいたのは双子の弟だった。
「たった一度の誤りだったみたいです。その女性には愛さんの相談していたみたいで。でも一度だけ、飲みすぎた勢いで。それで子どもが。兄は自分たち家族にも言わず一人で悩んでいたみたいです。愛さんに申し訳ないって。愛さんのことはとても大切だって。苦しませたくないって。それで抱え込んで…自殺したんです。」
それからも続く彼から聞く話は半分もわたしには入ってこなかった。
「バカじゃないの…わたしは辛いだけだよ。」