popoのブログ

超短編(ショートショート)

小さな本屋

長きに渡り、皆様方にご愛顧いただきました。

「棚橋書店」は、本日をもって閉店することと致しました。

 

父の代から数えると60年と少し。

数々の出会いを与えてくれた。

賑わいを見せていたあの頃。

立ち読みするお客様を注意していた日が懐かしい。

店で待ち合わせする恋人たちもいた。

「今月のオススメは?」

そう尋ねてくる学生さんもいたな。

「いいか。この本を見てみろ。

ここが折れ曲がっているだろう。

この本に出会った誰かは影響を受け、

人生を変えることだってある。大切なものなんだ。」

あの頃の父の言葉が懐かしい。

 

時代は移り変わり、映像の配信やスマホの普及、ネットなど、

現在の店舗商売が徐々に難しくなってきた。

時代の大きな波には耐えられなかった。

 

今でも「本は本屋で。」

そう言って訪れてくれる人がいる。

少しでも長く。そう思ってきたが限界だった。

それでも多くの人の娯楽、知性をわずかでも満たす。

そんな一躍を担えたことを光栄に思う。

これも、ひとえに皆のご支援の賜物だ。

 

読書の日に閉店する運命に

せめてもの縁を感じ、感謝したい。

 

さあ。最後の営業だ。

入り口のシャッターを開けると

僅かだが、列が並んでいた。

「懐かしいなあ。」