これまでの人生で一番の期待と不安の日を迎えた。
カーテンを開けると外は快晴だ。
「今日は素敵な一日になる。」
俺は窓から外を眺めて、自分に言い聞かせる。
昨日は全く寝付けず、今日は珍しく寝不足だ。
「おはよう!」
出社すると、いつもの同僚と挨拶を交わす。
どこかいつもより同僚の声が大きく感じる。
周囲はいつもと変わらない様子で仕事が始まる。
「大野君。資料のここを訂正して。」「はい。」
普段と何も変わらない仕事。
しかし俺の頭の中は(16時50分。)
その時間のことでいっぱいだった。
今日俺は、普段とひとつだけ違うことをした。
スマホの電源を切ったのだ。
「情報を入れたくない」そう思ったからだ。
次第に胸なのか、お腹なのか、
自分でもわからないがギュッとなってきる。
その度に深呼吸と水を飲んで冷静なふりをする。
あっという間のお昼だが、今日は食欲も湧いてこない。
俺は無駄に近くの道をひとりでウロウロ歩く。
しばらくして午後の仕事に入る。
「大野君。このデータまとめて。」「はい。」
普段と何も変わらない仕事。
しかし俺はトイレが近くなる。
そういえば学生時代、誰かが言っていたな。
「わくわくうんこ」
まさにそれだ。と思い出して笑みを浮かべる。
時間は16時を過ぎた。
ポン。と肩に上司の手がかかる。
「大野君。ちょっといいか。」
ついていくと今までに入ったことのない部屋の前だった。
「さあ。入って。」「あ。はい。」
俺は扉を開けた。
一緒に野球をする仲間。監督。そして会社の社長がいた。
上司はパン!と一回手を叩いて
「さあ。ここで運命を待とう!」
俺は結果がどうであれ、既に目に涙を浮かべていた。
「緊張するなあ」「まあダメ元だと気を楽に」
やっと周囲からの声が聞けた。
なんだか少し自分の不安が共有できたようでホッとした。
部屋は沈黙が続き、時刻が18時を過ぎたころ
「大野友樹。北海道日本ハムファイターズ。」
ワアアアア!パチパチパチ!
ホッとした。まさにこの言葉が俺にとって一番にくる。
喜びは俺よりも周囲の方が喜んでいるようだ。
そういえば・・・とスマホの電源を入れる。
ピコン。
母ちゃん「よかったね。」
その一言だったが、俺は涙がこぼれ落ちた。
この瞬間を忘れてはいけない。
そう誓った。