「やだ!もってくの!」
わたしは幼いながらに大切にしているものがあった。
「もう。さくら。わがまま言わないの。」
わたしが抱えているのは、ピンクのリボンをつけた、
イギリス生まれの優しい女の子。
出かけるときはいつも一緒だった。
「あら。かわいいわねぇ。」
近所のおばあちゃんは、そう言っていつも笑顔だった。
きっかけは2歳の誕生日。
「さくらおめでとう」
そういってパパが手渡してくれたのだった。
わたしは一目惚れだった。
特に表情があるわけではないが、何とも愛くるしい目で
わたしを真っすぐ見つめていた。
思わずギュッと抱きしめた。
そしてわたしの記憶がある限りでは
これがパパからの最初で最後のプレゼントだった。
わたしはそれから来る日も来る日も一緒にいた。
出かけるときも、お遊びするときも、寝るときも。
ある日、パパはお仕事で遠くへ行くから。
と、家を出ていった。
「ママ。パパは?」
「お仕事で遠くへ行ってるのよ。」
その言葉の本当の意味を理解したのは何年か経ってからだった。
わたしは年齢を重ねていって、自然とそれを手放していった。
そして「パパは?」という質問も、もうすることはなかった。
わたしもあっという間に18になった。
わたしは駅のホームで電車を待っていた。
そのとき目の前に一台の車両がやってきた。
その電車には、彼女の絵が無数に書かれていた。
わたしは家に帰るとあわてて押し入れを漁った。
しばらくすると奥から彼女が現れた。
彼女は今も変わらずに
特に表情があるわけではないが、何とも愛くるしい目で
わたしを真っすぐ見つめていた。
久しぶりにわたしは彼女を抱きしめた。
「hello・・・キティ。」