popoのブログ

超短編(ショートショート)

一夜限りのCM

「あのCM、覚えてる?」

 

いつもの居酒屋で、同僚がグラスを傾けながら、しみじみと呟いた。

 

「ああ、あれか。あのCM、めっちゃ流行ったよな。」

 

俺は、同僚の言葉に釣られて、記憶の引き出しを開ける。

 

それは、20年近く前の、とある飲料水のCMだった。

若者たちが白い砂浜を走り回り、青春の輝きを放つ映像。

そして、忘れられないキャッチコピー。

 

「あの頃に戻りたいなぁ」

 

同僚は、遠い目をしていた。

 

俺は、同僚の言葉に自分の気持ちが重なるのを感じた。

あのCMを見ていた頃は、未来への期待で胸が膨らんでいた。

仕事に恋愛に、悩みは尽きなかったけれど、それでも未来は輝いて見えた。

 

しかし、今の自分には、あの頃の輝きはない。

仕事に追われ、家族のことで悩み、

毎日が同じことの繰り返しのように感じていた。

 

そんな中、帰宅して、ふとテレビをつけると、

そこには懐かしいCMが流れていた。

 

画面の中の若者たちは、相変わらず輝いていた。

しかし、俺には、あの頃の若者たちとは違うものが見えてきた。

 

あの頃の自分たちは、何もかもが新しく、

未来への不安よりも期待の方が大きかった。

しかし、今の自分は、経験を積み重ね、

多くのものを手に入れた代わりに、

何かを失ってしまったように感じていた。

 

CMが終わると、俺はしばらく考え込んでいた。

 

俺はスマホを手に取り、同僚に電話した。

 

「なあ?見たか?あのCM」

「ああ!見たよ!一夜限りの復活だってな」

 

同僚は興奮気味だった。

 

「俺…あのCMを見て、色々と考えさせられたよ。」

 

俺は、同僚にそう告げた。

 

「俺もだよ。あの頃に戻りたいなんて、

そんなことないって分かってる。

でも、あの頃の気持ちを忘れないでいたいな。」

 

俺は、グラスにして、酒を注いだ。

 

「そうだ、あのCMの曲、スマホで探してみようか。」

 

同僚の言葉に、俺は大きく頷いた。

 

二人は、スマートフォンで、懐かしいCMの曲を検索し始めた。

 

曲は、すぐに流れ始めた。

 

メロディーが耳に入ると、二人は再び、

あの頃の自分に戻ったような気がした。