俺がなぜ陸上を始めたか?
それは小学生のころの運動会。
俺は勉強ができるわけでも、明るい性格でもなく、
運動神経が良かったわけでもない。特に何も取り柄はなかった。
人数集めで参加したリレー。誰も期待などしていなかったと思う。
バトンを渡された順位は一番だった。
俺は無我夢中にただ走った。
みんなの歓声をこれほど受けたことはなかった。
ゴール寸前、俺の隣をひとり。またひとり。と駆け抜けた。
ゴールして疲れ切った俺にかけられる声。「どんまい」
みんなの落胆する声をこれほど聞いたことはなかった。
「くやしい。」
俺の初めて抱く強い感情だった。
居ても至ってもいられなくなった。
悔しくて。ただただ悔しくて。
俺はそれからというもの、『走る』ということと向き合った。
どうしたら速く走れるか。どうやって鍛えるか。
食事。体重。バランス。すべてを意識した。
みんなが友達と遊ぶなか、俺は走った。
みんなが彼女を作るなか、俺は走った。
どれだけ時間を使っても、どれだけ走っても、
あの時のくやしさが消えることはなかった。
俺はその後、陸上部に入って刺激を受けた。
優れた選手がたくさんいた。
なぜみんな、あんなに速いんだ?
俺は「負けたくない。」その一心でついていった。
来る日も来る日も。必死だった。
そして迎えた高校総体。俺は全国大会の競技場に選手として立っていた。
今でも思い出す、あの時のくやしさ。
それでいい。忘れない。
だから俺は、まだ強くなれる。