「かずひこ!」
息子は私の言葉に反応することなく部屋へと戻っていく。
「ねえ。あなたからも何とか言ってよ。」
「え?何が?」
「ここ最近、かずひこ、食事以外はほとんど部屋にいるのよ。」
「ゲームか何かしてるんだろう。」
夫はいつもこういって誤魔化す。
あきらかに変だと思ったのは、つい先日だ。
親友のこうじ君が訪ねてきた。玄関から呼ぶ。
「かず!プール行こう!」
返事がない。「かず!おーい」
「ごめん!むり!」
かずひこは部屋から出てくることもなく、返事を返した。
「なんだよ。あいつ」
そういって、こうじ君は帰っていった。
今までにこんなことはなかった。
少なからず、この連休の前までは。
食事の際もどこか元気がないように感じる。
食事以外で部屋を出たと思ったら、
「お腹が痛い。薬ちょうだい。」
私は明らかに息子の変化を感じ取っていた。
「ねえ。あなた。絶対におかしいのよ!」
「気にしすぎだろう。いつものことだろう。」
「違うわよ。前は一緒に買い物だって行ったじゃない。」
「今は欲しいものもないんだろう。考えすぎだって。」
私が動くしかなかった。
私はひとつ決意した。
(今日は、今日こそは、ちゃんとあの子と話をしよう!)
コンコン。「かずひこ。入るわよ。」
「やめろよ。入らないで。」
「ダメよ。あなたと話をしたいから。」
そう言って強引に扉を開け中に入った。
散らかった部屋。机にはパソコンとヘッドホン。
そして、かずひこは部屋の隅でノートに何かを書いていた。
「やめろ!」私はノートを取り上げた。
キモい。へたくそ。じゃま。くるな。消えろ。
もうこれ以上、書ききれない程びっしりに書かれていた。
「かずひこ。ごめんね。ちゃんと話しましょう。」
私は優しく、かずひこを刺激しないように、声をかけた。
「もうやだよ。」そう言って、かずひこは涙を流した。