popoのブログ

超短編(ショートショート)

実家のばあちゃん

「ばあちゃーん!」
車を降りると古びた家の玄関に向かう。
ガラガラ
「いらっしゃい。」
しわくちゃの顔を、さらにくしゃくしゃな笑顔にして迎えるばあちゃん。
また少し小さくなったように見える。
じいちゃんが他界し、この家には、ばあちゃんひとり。
客間も閑散としたものだ。
「はい。どうぞ。」
冷たい麦茶。この味が懐かしい。
「お母さん。私やりますよ。」
「ええわ。ええわ。ゆっくり座っとってえ。」
小さな体でキッチンに立つばあちゃん。
前はもっと元気だった。
宿題やったのか?どこか行くか?
ちょっと手伝って。
口数は多いし、お節介だし。
「はい。どうぞ。」
と言った時のばあちゃんの手をみて
これほどしわのある手だったか?
「ちょっと待ってね。」
とキッチンへ向かうばあちゃんをみて
あんなにゆっくりした動きだったか?
食事をするばあちゃんをみて
こんなに食が細かったか?
「ねえ。ばあちゃん。体大丈夫?」
「あら。心配してくれてありがとう。
元気いっぱいよ。」
そう言うばあちゃんが心配だ。
少し家を歩き回る。使われなくなった部屋。
この部屋もばあちゃんが掃除しているのだろう。
この通路も。トイレも。風呂も。
あの体で。さらに心配になる。
少し外を歩いてみる。家の庭にある畑。
この畑もばあちゃんが耕しているのだろう。
近くにあるクワが。バケツやホース。
あの体で。また心配になる。
「ばあちゃん。座って。」
「なんだい?どうしたの?」
身体をさすり肩を揉む。
少しチカラを入れただけでも痛がってしまう。
「ありがと。ありがと。」
「ばあちゃん。明日畑手伝うよ。」
「なにを。ゆっくりしてらっしゃい。」
「どうせやることもないんだから、手伝わせて」
「そうかい。ありがと。ありがと。」
「ねえ。ばあちゃん。何かあればすぐ来るから。無理はしないでね。」
「そうかい。ありがと。ありがと。」
ずっと笑顔の、ばあちゃん。
この会話がずっと続けばいいのに。