それはまだ携帯電話が普及する、ずっと前のこと。
俺は初恋をした。
抑えられない感情。
「好きだ」「少しでも一緒に居たい」という想い。
俺は毎日葛藤の日々だった。
そんな思いを抱えたまま卒業を迎えた。
それでも彼女を忘れられなくて、好きで好きで。
愛おしくて。「また会いたい」そんな思いだった。
ある日、駅でたまたま彼女に出くわした。
「ようこ!」俺は勇気を出して彼女に声をかけた。
彼女は立ち止まり、少しだが話をすることが出来た。
ドキドキしながら幸せな時間だった。
俺は最後にこう言った。
「一週間後。ちょうど一週間後のこの時間。
この場所で。また会いたい。」
彼女は微笑んで「わかったよ」そう言って去っていった。
それからの一週間は楽しみで仕方なかった。
何をするにも興奮状態だった。
何をするにも俺の頭の中は待ち合わせのことで、いっぱいだった。
そしてついに迎えた約束の日。
俺は一時間も前に着いてしまった。
抑えられないほどのドキドキ。
「早く会いたい」
時計を見る。
「あと5分」
苦しいほどに体の中がパンパンに膨れ上がる。
約束の時間から30分・・・1時間。2時間。
彼女は来なかった。
もちろん何かがあったのかも。とも考えた。
でもそれは、わずかな望みでしかなかった。
今の時代にはない苦い大失恋だった。
それでも失恋はしたが、
それはそれで「俺の青春」に違いなかった。