喫煙歴32年。
俺も52になった。
何度もやめよう・・・とは
思ったものの決意が弱いオレ。
そんな俺が運命的な出会いをしたのは
3年前。
近所の居酒屋に、ひとりで居ると
取引先で見かけた彼女とばったり遭遇した。
「え~!前田さん!この辺りなんですか?」
「ああ。そうだよ。」
「私も近所で。たまにここ来るんですよ!」
「そうなんだ。偶然だね。」
「ほんと!ここで知り合いに会うなんて!
あ!すみません!私も熱燗ください!」
翌日は久しぶりに二日酔いだった。
それからというもの、何度かこの店で待ち合わせた。
回数を重ねるたびに、恥ずかしながら
20歳も年の離れた彼女に恋心を抱いた。
ある日、居酒屋にあるTVに箱根の温泉が流れていた。
「私、箱根行ったことないんですよねぇ。
前田さんはありますか?」
「この歳だからね。一回くらいはあるよ。」
「え~いいなあ。ねえ!
今度一緒に旅行行きましょ!」
俺は何かの罠にハマっているのか?と疑った。
しかし、約束の日は訪れて
一緒に旅館に着いた。
その日の夜。
「前田さん。ひとつお願いがあります。」
「なに?」
そう返しながらも、ついに騙される時が来たかと思った。
「私も真剣です。
でも前田さんはおじさんじゃないですか。」
(あたっている)
「先に居なくなっちゃったら困ります。
お願いだから、タバコはやめてください!
少しでも永く一緒に居たいんです。」
彼女の言葉が俺の心に突き刺さった。
俺は口にくわえたタバコをすぐさま消した。
「ああ。そうだな。
やめる決心が、“今”ついたよ。」