駅前のベンチ
みんなからしたら普通の場所も
私にとっては大切な場所。
それは私がまだ高校生の
少し風が冷たくなった頃だった。
「お!水嶋じゃん。」
「あ。武田くん。」
「こんなとこ座って何してるの?」
「別に何も。」
その日はひとりになりたい気分だった。
「これみてよ!」
「何?動画?」
タイトルはネコと赤ちゃんの戦い。
撫でようとする赤ちゃん。
何かされるのかと振り払うネコ。
互いに激しさを増していく。
「めちゃくちゃ可愛くね?
ねえ。これみて。」
次はネコと赤ちゃんの警察ごっこ。
パトカーの乗り物を押す赤ちゃん。
びっくりしてダッシュするネコ。
そして豪快に転ぶ。
私は思わず声を出して笑った。
「ね。可愛いでしょ!」
そう言いながら指を動かす。
次はネコと赤ちゃんの抱擁。
抱きしめ合って眠るネコと赤ちゃん。
「実は仲良しなのにいつも激しんだよね」
そう言って武田くんはニコっとした。
「何だか嬉しそうじゃん」
「いや。だってウチもネコ飼ってるじゃん。だから親しみあるんだよね」
「ネコ飼ってるとか知らないし」
そう言って2人で笑う。
さっきまでひとりで居たいと思っていたのが、
今ではもう少し一緒にいたい。そう思った。
それからというもの、定期的にこの場所で会っては色んな動画を見せ合った。
(何かないかなあ。)
私は家に帰ってからも、いつも次に見せる動画を検索した。
(これおもしろっ!)
そう思えば早く見せたくて仕方なかった。
次第に私たちはLINEで動画を送り合うようになった。
そして会った時は、ふたりで検索するようになった。
顔と顔が近づくだけでドキドキした。
私は久しぶりに、そのベンチに座る。
前を通る人たち。
きっとみんなは普通の場所。
でも私は青春を思いだす大切な場所。