桜舞い散る春の日、
私は母と二人でいつものように散歩をしていた。
母は私の腕に優しく手を添え、
満面の笑顔で空を見上げていた。
しかし、その目はどこか遠くを見つめているようにも見えた。
母は数年前から病を患っていた。
最初は些細な物忘れから始まったが、
今では食べたばかりの食事さえ、
時々思い出せなくなっていた。
それでも、母の笑顔は昔と変わらず温かく、
私の心を癒してくれた。
私たちは公園のベンチに腰掛け、お弁当を食べた。
母は好きなイチゴを美味しそうに頬張っていた。
ふと、母が私にこう尋ねた。
「ねえ、私たちはどこにいるの?」
私は一瞬戸惑いながらも、優しく答えた。
「ここは大通り公園だよ。よく一緒に散歩に来る場所でしょ?」
母は目を丸くして、こう言った。
「そうだったかしら?初めて来たような気がするわ。」
私は何も言えず、ただ母の顔をじっと見つめた。
母は私の手をぎゅっと握りしめ、こう言った。
「ねえ、あなたって誰だったかしら?」
その瞬間、私の心は張り裂けそうになった。
母は私、娘のことを忘れてしまったのだ。
涙が溢れそうになるのを堪えながら、私は母にこう答えた。
「私はマイよ。あなたの一番の娘よ。」
母は私の顔をじっと見つめ、そしてゆっくりと微笑んだ。
「そうだったの?なんだか懐かしいわね。」
母は私の手をさらに強く握りしめ、こう言った。
「ねえ、一緒に写真撮りましょう。」
私はカメラを取り出し、母と二人で写真を撮った。
その写真は、今でも私の宝物だ。
母はそれから数日後、静かに息を引き取った。
享年83歳だった。
母が亡くなってからというもの、
私は毎日母の面影を思い出す。
母との思い出は、私にとってかけがえのないものだ。
そして、母から教わった優しさや思いやりを、
これからも胸に刻んで生きていきたい。
「おはよ!」
今日も笑顔で私の宝物に声をかける。