死んでしまった。
あたり前にいた人が、いなくなった。
いつかはこんな日常が来るってわかっていたけど。
それでも現実は複雑なものだ。
今になって、もっと出来たことはあったのじゃないか?
と自分に問う。
今になって、もっと話したかった事はあったのじゃないか?
と自分に問う。
もう永くはないと知って、私は準備をした。
身の回りの準備。心の準備。
押し入れから出てくる私の知らなかったもの。
ひとつひとつ手に取るたびに訪れる感情。
タンスから出てくるたくさんの服。
こんなにオシャレしてたんだ。とはじめて知る。
いや。今まで目を向けていなかっただけかも知れない。
私はあたり前にあるものは、これからもあたり前にあると勘違いする。
私はあたり前にあるものだから、その時の大切さに気付こうともしない。
何かしよう。何か話そう。と思っても。
面倒くさいと思う私がいる。だから後回しにしてしまう。
そして忘れる。
あたり前だから重要に思わない。あたり前だから特別に思わない。
本当にあたり前だったの?
今こうやって居なくなって。あたり前じゃなくなった。
ああ。そうか。
あたり前じゃなかったんだ。
もっとたくさんの時間を共有したかったなあ。
旅行にも行きたかった。食事にも行きたかった。
そう言えば、箱根に行きたいって言ってたなあ。
今になって思い出す。
もっとたくさんの感謝をしたかったなあ。
ごめんねって。ありがとうって。
気にしてなかったけど、いつも服をたたんでくれてた。
気にしてなかったけど、いつも私の好きなものを、そっと買ってくれていた。
ああ。
何てバカなんだ。わかっていたのに。
もっと「ありがとう」って。もっと「幸せだよ」って。
ひとは思い返す生き物だからこそ。もっと。もっと。