popoのブログ

超短編(ショートショート)

プレーオフ

プレーオフの第3打。
私は極限に集中している。
ここへ歩く道のりで
私は過去を振り返った。
あがり症な私。
いつも肝心な時に私はチカラを発揮できない。
小さな頃から才能あると騒がれて
私は多くの人に囲まれた。
数多くの期待や夢を私は抱えた。
高校総体の優勝がかかる最終打。
1m満たない距離のパット。
私はグリーンにあがった瞬間から
記憶がない。
気付いた時には泣いていて、みんなに慰められていた。
プロになり初の優勝がかかったホール。
2打差あった私のスコアも
1打目のOBで私は頭が真っ白になった。
それからも試合を重ねる度に、
最終日。最終ホール。最終打。
私はトラウマになっていた。
みんなが気遣う姿が余計に私のプレッシャーになった。
悔し涙。試合に負けたからじゃない。
私は自分に負けてきた。
それでも私を支え続けてくれた家族に。
それでも私を支え続けてくれたコーチに。
それでも私を支え続けてくれたファンに。
私は今度こそ。と強く誓う。
グリーンを見つめる私。
距離を見据えて風を感じる。
そしてグリップを握る。
ふぅー。と静かに息をはく。
その時だった。
頭の中に父の姿が思い浮かぶ。
小さな頃から私に厳しかった父。
優しい言葉をかけられたことはない。
ゴルフとなると、いつも厳しい顔を私に向ける。
そんな父が今日スタート前に言った言葉。
「自分が納得出来ればいい。」
結果にこだわってきた父が
初めて私自身に向けて言ってくれたように感じた。
私は何だか心が落ち着いた。
そしてクラブを振り下ろす。
今までにないくらい軽かった。
まっすぐグリーンに向かう白い球は
風にゆられながら進んでいく。
グリーンに落ちて、1秒。2秒。
ワー!っという歓声があがる。
白い小さな球はカップに吸い込まれた。
私は何が起こったのか、現実までに時間がかかった。
数秒が経ち、私は涙が溢れていた。
私はその場に崩れ落ちた。
そこからはいつものように記憶がない。
再び我に返ったのは、待っていた父が
私に声をかけた時だった。
「感動した。ありがとう」
私はまた前が見えなくなった。