popoのブログ

超短編(ショートショート)

殿が行く

「また殿がいないぞ!」

城内はいつものように慌ただしくなった。

「殿・・・まずいですよ。」

「気にするな。さあ行くぞ。」

 

城下から離れた山のふもと。

「わ~!」「おとのさま~」「とのさま!」

殿の姿を見るなり、駆け寄る子供たち。

「お殿様。いつもありがとうございます。」

その女性は孤児たちからお母さんと呼ばれている。

「何か他に困っておることはないか?」

「いえ。お殿様が気遣っていただけるおかげで不自由しておりません。」

「そうか。そうか。何かあればまた言ってくれ。」

そう言って子供たちと戯れる。

「もう。早く帰らないと。」

「すみません。お供の方までいつも。」

「いや。俺はただ殿の世話係だから。」

「でも見てください。お殿様のおかげで子供たちがあんなに元気で。」

 

二人は、子供たちと遊ぶ、殿様を見ながら話を続ける。

「豊かなものは、その者たちが守っていく。ただ豊かでないものは、誰が守っていく?」

「これが殿の口ぐせです。」

「城下はあれほど豊かなのに・・・。」

「大丈夫ですよ。殿は人の心がわかるお方です。この場所も。子供たちも。いつかきっと豊かになります。」

 

争いのある社会。無責任な大人たち。

そしてここにいる孤児たち。

おかしな循環がこの国には存在する。

 

その一方で、正そうとする者もいる。