「また殿がいないぞ!」
城内はいつものように慌ただしくなった。
「殿・・・まずいですよ。」
「気にするな。さあ行くぞ。」
城下から離れた山のふもと。
「わ~!」「おとのさま~」「とのさま!」
殿の姿を見るなり、駆け寄る子供たち。
「お殿様。いつもありがとうございます。」
その女性は孤児たちからお母さんと呼ばれている。
「何か他に困っておることはないか?」
「いえ。お殿様が気遣っていただけるおかげで不自由しておりません。」
「そうか。そうか。何かあればまた言ってくれ。」
そう言って子供たちと戯れる。
「もう。早く帰らないと。」
「すみません。お供の方までいつも。」
「いや。俺はただ殿の世話係だから。」
「でも見てください。お殿様のおかげで子供たちがあんなに元気で。」
二人は、子供たちと遊ぶ、殿様を見ながら話を続ける。
「豊かなものは、その者たちが守っていく。ただ豊かでないものは、誰が守っていく?」
「これが殿の口ぐせです。」
「城下はあれほど豊かなのに・・・。」
「大丈夫ですよ。殿は人の心がわかるお方です。この場所も。子供たちも。いつかきっと豊かになります。」
争いのある社会。無責任な大人たち。
そしてここにいる孤児たち。
おかしな循環がこの国には存在する。
その一方で、正そうとする者もいる。