popoのブログ

超短編(ショートショート)

老農家

青空が農園を包む中、

老農家の主人は畑に腰を下ろしていた。

かつては若者たちで賑わっていた農園も、

今は静まりかえっている。

後継者がいなく、畑を続けるか悩んでいた。

 

ある日、都会からやってきた若者が農園を訪れた。

「一度ここに来たことあるんです」

「ほら。トマトの収穫を学生がやっていましたよね?」

「あぁ。随分と昔だが…」

「私、その時の学生だったんですよ!」

「ここのトマトが大好きで。忘れられなくて!」

「育ててみたいんです」と、若者は目を輝かせて話す。

主人は、若者の熱意に心を打たれ、一緒に畑を耕すことにした。

 

しかし、農業は甘くない。

虫害に悩まされ、収穫量は思うように伸びない。

若者は何度も挫折しそうになった。

そんな時、主人は、かつて自分自身が経験した苦労話を語り始めた。

 

「自然相手だから、上手くいかないことだってたくさんある。

でも、諦めずに育てた野菜を食べたお客さんの笑顔を見ると、

こんなにも嬉しいものはないんだ。」

 

主人の言葉に、若者は勇気をもらった。

 

「私もそうでした」

 

若者は、主人から教わった伝統的な農法を守りながら、

新しいアイデアも取り入れ、農園を少しずつ変えていった。

 

ある年の夏、農園は色とりどりの野菜でいっぱいになった。

地域の人たちも、この農園の野菜の美味しさを知って、

再び多くの人が訪れるようになった。

 

収穫祭の日、地域の人々が集まり、

皆で育てた野菜を囲んで食事をした。

若者は、自分の作った野菜を美味しそうに食べる人々の

笑顔を見て、大きな感動を覚えた。

 

「ありがとうございました。」

「私…この農園で働くことができて本当に良かったです!」

 

若者の言葉に、主人は静かに頷いた。

そして、夕焼け空を見上げながら、こう呟いた。

「この農園は、これからもずっと続いていくんだ。」

 

「頼んだぞ」