「いらっしゃい!」
ここは小さな焼き鳥屋。
俺は純平。ここの店長。カウンターで焼くのが仕事だ。
「純ちゃん。生ちょうだい」「はいよ」
ここには仕事帰りのサラリーマン。OL。
大学帰りの学生たち。家族に友達。恋人たち。
みんなが集まる。
ほら、カウンターの奥にいるあの子。
あの子は最近彼氏と別れたらしい。それでもいつも明るくて、ひとりでも来てくれる。
奥のテーブルではサークルの集まりか。学生たちが賑やかだ。
今来たのは仕事帰りの清水さん。
彼はここで奥さんと待ち合わせだ。
ここに訪れるみんなは、それぞれの思いを持っている。
寂しさを紛らわす人。ストレスの溜まった人。
大切な時間を過ごす人。一日の疲れを癒す人。
でもみんなとても明るい。みんな笑顔だ。
俺はそんなみんなの顔を見て、姿を見て、元気をもらう。
なんだかここから見る光景が、いつも同じようだが、いつも違う。
俺は来てくれる一人一人と向き合っているつもりだ。
今日も元気か。今日は何かあったのか。
声をかけては様子を伺う。目を見ては様子を伺う。
余計なおせっかいかもしれないが、せっかく来てくれたなら、
俺はここでの時間を大切な時間にしてほしい。
「どうした。純ちゃん?考え事か?」
「いや。今日もみんなの顔が見れて幸せだなって。」
「なんだよ。気持ち悪いなあ。」笑
「なんか飲んでよ。」
「悪いね。いつも。ありがと。じゃあ生もらうね。」
俺はこの暑さの中くたばりそうになりながら、一本一本丁寧に焼く。
もちろん俺だって疲れるさ。
でも、この一杯が俺を蘇らせる。
「いただきます!」
俺は清水さんとジョッキを鳴らす。