俺には離れて暮らす弟がいる。
もうかれこれ15年近く会っていない。
俺は高校を中退してすぐ上京した。
パフォーマーとしての夢があったからだ。
俺は、深夜にバイトをして朝から練習に励んだ。
水道やガス、電気など止まることも多々あった。
それでも練習をサボったことはない。
もやしを食べて、踏ん張った日々。
賞味期限切れのパンを食べて、踏ん張った日々。
「パフォーマーとして成功するまで家族とは連絡とらない。」
これは俺が自分に設けた条件だった。
心配かけたくない。帰って来いと言われたくない。
みっともない姿をさらしたくない。
上京前と比べたら、かなり瘦せこけただろう。
それでも自分の夢を追いかけた。
3年が経ち、ちょっとしたイベントには出られるようになった。
5年が経ち、メインでイベントを開けるようになった。
それでも会場が観客でいっぱいになることはなかった。
「ここが限界なのか」そう思っていた時、
共演した仲間であり、ライバルでもある友から連絡が入った。
「でかいTVの仕事が入った。お前のチカラを貸してくれ。」
俺には断る理由はなかった。
仕事の後に俺は聞いた。
「なぜ声かけたのは俺だったんだ?」
「お前が毎日人一倍努力しているのを俺は間近で見てきた。
お前以外の選択肢はなかった。」
俺はそのTVがきっかけとなり、毎日仕事で忙しくなった。
プルルル・・・
TVを観た家族から連絡がきた。
もうそろそろいいか。と俺は電話に出た。
ここまで10年とちょっと。
昨日まで一緒にいたかのような会話をする。
「たまには帰って来いよ。」と弟が言う。
俺のパフォーマーとしての生活は、
なかなか帰省する時間もないほど、忙しくなっていた。
俺は今日、起きてすぐTVをつけた。
そこには驚くことに弟が映っていた。
弟は感謝状を受け取っていた。
「なにかコメントをお願いします。」
「僕は、にいちゃんに恥じないようにと、真面目に生きてきました。
何事にも一生懸命向き合ってきました。
やっぱり僕は、自慢のにいちゃんの弟です。」